ペニシリンは初めて発見された抗生物質です。
昔の薬=もう使えない薬、と考えてはいませんか?
今回は、ペニシリンGの基礎から、症例への介入ポイントを4つ紹介したいと思います。
病院、薬局での症例介入の仕方がわからなくて困っている新人さん、学生さん
認定、専門の症例報告で困っている方のお役に立てればと思います。
ペニシリンGについて
ペニシリンの歴史
初めにペニシリンの歴史を少し解説します。
ペニシリンは1928年にイギリス人のフレミングによりアオカビから発見された抗生物質です。
彼はこの功績によりノーベル賞を受賞しています。
学生の皆さんは国家試験にも出ますのでしっかり覚えておきましょう。

脱線しますが、ドラマ化された「Jin~仁~」でタイムスリップした医師が
梅毒治療のためにペニシリンを抽出する話がありました。
史実ではもちろんありませんが、ミカンに生えたアオカビからペニシリン合成株を見つけ、
抽出するまでの過程が描かれています。
個人的なおすすめ漫画の一つですので是非読んでみてください。
構造式・作用機序
初めにペニシリンGについての復習です。

ペニシリンGはβラクタム環を有しています。
βラクタム環構造は国家試験にも頻出です。
学生さんは構造式も覚えておくと良いと思います。

βラクタム環は国家試験に出る。
このブログでも何回も言っているね(笑)

それだけ大事なことだからね
作用機序も復習しましょう。
ペニシリン結合タンパク質(PBP)に結合し、細胞壁の合成を阻害することで抗菌作用を示します。
抗菌スペクトル
ペニシリンGが有効な菌種についてです。
主に溶血連鎖球菌、肺炎球菌(一部耐性有)、緑色ブドウ球菌、一部のブドウ球菌
髄膜炎菌、梅毒スピロヘータなどです。
これらの菌による感染症に対しては非常に有効です。
そのため、初めは広域抗菌薬を投与していても、
ペニシリンGに感受性がある場合は、積極的にde-escalationを行いましょう。

ペニシリンって昔の薬だから、
もう使い道がないのかと思っていたよ。

そんなことないよ。
有効な菌に対しては非常に有効だから、
積極的に使っていけるといいね
また、経口のペニシリンを紹介できれば良いのですが、日本には適当なものがありません。
※海外にはペニシリンVがあります。
そのため、代わりにアモキシシリンが使われます。
ペニシリンGのスペクトルや適応疾患については、
毎回おすすめしている岩田先生の著書「抗菌薬の考え方、使い方」
でも多くのページを割いて紹介されています。
詳しく勉強したい方にはおすすめです。
ペニシリンGの適正投与量
初めにペニシリンの適正投与量について添付文書を確認してみましょう。

適正投与量は400万単位/回を1日6回です。

400万単位!
それも6回に分けて投与するの!
ペニシリンは100万単位=600mgといわれています。
ですのでグラム単位にすると2.4g/回を1日6回です。
ペニシリンGは分割して投与することでより効果を発揮するタイプの抗菌薬です。
さらに特に高温環境下で失活してしまうため、頻回に分けての投与が必要です。
看護師さんには大変ですが、理由を含めて説明して協力してもらいましょう。
それでは介入ポイントの紹介に移りたいと思います。
溶連菌に対するクリンダマイシンの併用
壊死性筋膜炎という疾患を聞いたことがありますか?
壊死性筋膜炎は、皮下脂肪組織と固有筋膜の間にある浅層筋膜の細菌性炎症で
組織壊死を引き起こすの感染症の一つです。
非常に重篤化することもあるため、適切な抗菌薬治療に加えてデブリードメン(外科的処置)
が必須です。
以前に医師に「壊死性筋膜炎を疑ったら、疑いが晴れるまで壊死性筋膜炎として治療する」
という言葉を聞きました。
実際は丹毒や蜂窩織炎であっても、否定できるまでは必ず疑い続けましょう。
壊死性筋膜炎の起因菌は溶血連鎖球菌以外にもグラム陰性桿菌や嫌気性菌が原因のこともあります。
そのため、初期治療に広域抗菌薬のカルバペネムが推奨されます。
※MRSAが否定できない場合はバンコマイシンの併用もあります。
カルバペネムについては過去の記事で介入症例を紹介していますので合わせてご覧ください。
壊死性筋膜炎の患者さんの血液培養や壊死創から溶連菌が検出された場合は
ペニシリンGの出番です。
この際にクリンダマイシンを併用することを忘れないようにしましょう。
クリンダマイシンはタンパク質合成阻害作用により溶連菌の毒素産生を抑制する効果があります。
このように1+1=2以上になる組み合わせを「シナジー効果」といいます。
- 初期治療はエンペリックにカルバペネム系抗菌薬を投与
- 血培から溶連菌が検出された場合は ペニシリンG400万単位×6回とクリンダマイシン600mg×3回を併用
- 整形外科に依頼してデブリードメンを行う。
ペニシリンGによる高K血症
ペニシリンGには100万単位当たり約1.5mEqのカリウムが含まれてます。
そのため、ペニシリンG400万単位 q4hr で投与すると
36mEq/日のカリウムを投与することになります。
さらに、感染性心内膜炎では最低でも約4週間、の投与が必要です。

かなりの量のカリウムが投与されるんだね。
そのため、投与している患者さん、特に腎機能が低下している患者さんでは
高カリウム血症が生じることがあります。
そのため、高カリウム血症を生じたまたはそのリスクの高い患者さんには
ペニシリンGの代わりとなる抗菌薬への変更が必要になります。
スペクトルが近く、カリウムを含有しない抗菌薬にアンピシリンがあります。
アンピシリンの訂正投与量は2g×4回/日です。
また、すでに高カリウム血症が生じている場合はその対策も必要です。
対応については下の記事にまとめてありますので合わせてご覧ください。
ペニシリンGのMICを確認すべき症例
MICは最小阻止濃度、つまり抗菌薬が細菌の増殖を抑えるのに必要な最小限の濃度のここです。
抗菌薬 | MIC | 感受性 |
PCG | 1 | S |
MEPM | 0.1 | S |
CTRX | 0.25 | S |
VCM | 0.5 | S |

検査結果で見たことあるやつだ。
数字の意味がさっぱりだよ

基本的には数字は見なくても大丈夫。
でも、ペニシリンGでは例外があるんだ。
基本的には感受性試験の結果のうちMICの値は読まなくても大丈夫です。
基本的には感受性(S)があるかどうかだけ見れば初めは十分です。
むしろ、「一番低いMICの薬を使う」という誤った選択を防ぐ方が重要です。
しかし、ペニシリンGのMICをきちんと確認しなければいけない事例は2つあります。
順番に見ていきましょう。
肺炎球菌による髄膜炎感染症
肺炎球菌に対しては髄膜炎かそうでないかによって違います。
髄膜炎以外の肺炎球菌感染症におけるMICは8 µg/mL以上です。
つまり、それよりペニシリンGのMICが低い場合、肺炎球菌感染症に対して使用できます。
そしてMICは8 µg/mL以上の肺炎球菌はほとんどいません。
そのため、髄膜炎以外の肺炎球菌感染症に対してはペニシリンGは使用できます。
一方、髄膜炎におけるMICは0.12 µg/mL以上になります。
残念ながら、髄膜炎に対してはペニシリンGは使えません。
セフトリアキソンなど中枢移行性のよい、感受性のある薬剤を使用しましょう。
- 髄膜炎以外の肺炎球菌感染症に対しては基本ペニシリンGは使用できる。
- 髄膜炎に対してはペニシリンGはほとんど使えない
連鎖球菌による感染性心内膜炎
連鎖球菌による感染性心内膜炎については、自然弁か人工弁かによります。
それぞれのMICと抗菌薬、ペニシリンGの適応の可否は以下の通りです。
- MIC:0.12 µg/mL以下の場合
ぺニシリンG 300万単位×6回/日 4週間点滴投与
- MIC:0.12より上、0.5 µg/mL以下の場合
ぺニシリンG 300万単位×6回/日 4週間点滴投与
に加えて
ゲンタマイシン3mg/kg/日 2週間を併用します。
- MIC:0.5 µg/mLより上の場合
バンコマイシンをトラフ値15~20 µg/mLを目標にして投与しましょう。
バンコマイシンのTDMに自身の無い場合は、こちらの記事をご覧ください。
一方、人工弁では以下の通りです。
もちろん自然弁よりもMICは低めに設定されています。
- MIC:0.12 µg/mL以下
ペニシリンG 400万単位×6回/日を6週間
さらに、ゲンタマイシン3mg/kg/日 2週間を併用します。
- MIC:0.12 µg/mLより上
ペニシリンG 400万単位×6回/日を6週間
さらに、ゲンタマイシン3mg/kg/日 6週間を併用します。
人工弁では治療はさらに長期になります。
投与量や投与期間がMICにより異なるので、しっかり確認して治療に臨みましょう。
まとめ
今回はペニシリンGの症例介入、症例報告できる介入ポイントを紹介しました。
- 適正投与量は400万単位/回を1日6回
- 溶連菌感染症にはクリンダマイシンを併用
- ペニシリンGには100万単位当たり約1.5mEqのカリウム
- 肺炎球菌、連鎖球菌感染症ではMICをチェックする
日々の処方提案や症例介入に活かしてみてください。
抗菌薬をしっかり勉強したい方には認定もおすすめです。
頑張っていきましょう。
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