今回は、日本化学療法学会の抗菌化学療法認定薬剤師を
これから目指そうとしている人、
目指しているけれど症例報告で悩んでいる人、
そんな先生方に自分が症例審査を通った経験を通して、
どのような介入が症例報告になるのかを紹介させていただきます。
今回は、特に適正な薬物投与量の提案に関する症例報告のポイントを紹介します。
前回の記事はこちらです。

適正な薬物投与量の提案について
適正な薬物投与量の提案が薬学的に重要になるとを聞いて、どのようなことを思い浮かべますか?
おそらく以下のようなものが挙がると思います。
- 菌に対して十分な量の抗菌薬濃度を保てない
- 十分な投与量の抗菌薬を投与しないと感染部位まで届かない
- 耐性菌を生み出してしまう可能性がある
- 治療がうまくいかなかったときに、用量が足りなかった可能性を残してしまう
などの答えが挙がりましたでしょうか?

適切な投与量を守るのは大切なんだね。

適切な抗菌薬の投与量を提案できることは、
薬学的にも、感染症治療的にもとても重要な介入となります。
そのため、抗菌化学療法認定薬剤師の症例報告としては十分な介入内容になります。
症例報告の具体例
症例1:セファゾリンの適正投与量の提案
セファゾリン(CEZ)は第一世代セフェム系抗菌薬で、
主にグラム陽性球菌に対して有効な抗菌薬です。
特に、抗黄色ブドウ球菌ペニシリンが認可されていない日本では、
メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)に対する第一選択薬として使われています。
しかし、添付文書を見ると投与量は最大1日5gと記載されています。
実際は、数々の書籍に記載されているようにCEZの投与量は2g×3回/日です。
そして、公知申請で保険適応もあります。
その一方で、実際に正しい投与量で投与されている例をあまり見たことがありません。

CEZ 1g q8hrやCEZ 2g q12hrの処方せんを見たことありますね。
そこで、介入が必要です。
血液培養からMSSAが検出された患者さんの治療にCEZを提案した。
投与量はCEZ 2g q8hrとした。
また、医師には添付文書の記載量よりも多いが、保険適応上も問題の無いことを説明し、
提案した治療量での治療が開始された。
このようにCEZを正しい投与量で投与してもらう介入は症例報告として適切な内容になります。
CEZ投与症例:番外編
しかし、CEZの使用について1点だけ注意が必要です。
CEZは髄液の移行性が非常に悪いです。

髄膜炎や脳膿瘍などの中枢の感染症には絶対に投与してはいけません。
そのため、以下のような介入もできます(これは後輩の症例になります)。
血液培養からMSSAが検出された患者さんの治療にCEZ 2g q8hrで治療を開始した。
しかし、精査のためのCTで感染性の脳膿瘍が疑われた。
CEZは中枢移行性が悪いため、以下の抗菌薬への変更を提案した。
セフトリアキソン2g q12hr+VCM 1g q12hr
提案した治療量での治療が開始された。
CEZまとめ
CEZについては以下の2点が重要です。
- 正しい投与量は 2g q8hr
- 中枢移行性は悪い
この2点は必ず覚えておきましょう。
症例2:メロペネムの適正投与量の提案
次はメロペネム(MEPM)です。
MEPMはカルバペネム系抗菌薬の一つで、
グラム陽性球菌からグラム陰性桿菌、特に緑膿菌にも抗菌スペクトルをもっており、
むしろ、MEPMが有効でない菌を覚えるほうが良いと思えるほど広い抗菌スペクトルを有しています。
カルバペネムが無効な菌種(一部抜粋)
MRSA、VRE、マルトフィリア、カルバペネム耐性緑膿菌、
カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)
マイコプラズマ、クラミジア、レジオネラ、リケッチア
そんなカルバペネム系抗菌薬の筆頭ともいえるMEPM
よく広域すぎて乱用されるといわれていますが、以下のような状況では第一選択になります。
- ESBL産生菌感染症(大腸菌、クレブシエラなど)
- 原因菌が不明で、抗菌スペクトルを外すことができない状況
抗菌スペクトルを外せない状況の一つに、原因菌が確定する前の髄膜炎があります。
※緑膿菌までカバーする必要のある院内発生や免疫抑制患者さんを想定しています。
※※緑膿菌をカバーするなら第4世代セフェムでもよいとも思います(あくまで自分の症例報告です)。
※※※バンコマイシンを併用(MRSAを想定)するのもお忘れなく。
症例2:髄膜炎へのMEPMの投与量の提案
MEPMの投与量は一般的に1g q8hrです。
しかし、髄膜炎でその量は不十分です。
中枢まで移行させるにはMEPM 2g q8hrが必要です。
そこで、介入が必要です。
髄膜炎の初期治療に対して以下の抗菌薬を提案した。
MEPM 2g q8hr+バンコマイシン 1g q12hr
なお、髄液培養を取り、原因菌が判明したのちには
適切な抗菌薬への変更を行う。
なお、化膿性髄膜炎での増量が添付文書で認められているカルバペネム系はMEPMのみです。
どうしても髄膜炎にカルバペネム系を使用するのであれば自分はMEPMを推奨します。
MEPM投与症例:番外編
また、MEPMをはじめとするカルバペネム系では薬物間相互作用で気を付けることがあります。
バルプロ酸との併用は禁忌です。
そのため、以下のような介入例もあります(これは後輩の症例です)。
てんかんの既往でバルプロ酸の内服歴のある患者に医師から
緑膿菌が疑われるから、MEPMを投与したいと希望があった。
しかし、カルバペネム系抗菌薬はバルプロ酸との併用は禁忌であるため、
代わりにタゾバクタム/ピペラシリン(TAZ/PIPC)の投与を提案した。

緑膿菌=カルバペネムだと思ってたよ。

緑膿菌をカバーしたいだけであれば、
TAZ/PIPCや第4世代セフェム、
セフタチジムなど
ほかにも選択肢はあります。
緑膿菌=カルバペネム系抗菌薬とならないように気をつけましょう。
MEPMまとめ
CEZについては以下の4点が重要です。
- 安易に使用しない
- カバーできない菌種を把握する
- 髄膜炎への投与量は 2g q8hr
- バルプロ酸との併用は禁忌
この4点は必ず覚えておきましょう。
まとめ
いずれも実際に症例報告で合格した症例です。
このように、適切な投与量の提案でも1症例にすることができます。
残り10症例
是非、抗菌薬の提案、症例介入を実践してみてください。
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