今回も、日本化学療法学会の抗菌化学療法認定薬剤師を
これから目指そうしている人、
目指しているけれど症例報告で悩んでいる人、
そんな先生方に自分が症例審査を通った経験を通して、
どのような介入が症例報告になるのかを紹介させていただきます。
1つ前の症例編②はこちらからご覧ください。
今回は、抗菌薬による有害事象に対する対応に関する症例報告のポイントを紹介します。

抗菌薬による有害事象に対する提案について
抗菌薬による有害事象というとどのようなことをイメージしますか?

有害事象?
アレルギーとかかな?
おそらく以下のようなものが挙がると思います。
- アナフィラキシーショック
- 腎機能障害(AKIなど)
- 特異的な有害事象
などの答えが挙がりましたでしょうか。

このような有害事象に対して解決策や代替案を提案することは
薬剤学的な介入の一つになると思います。
そのため、抗菌化学療法認定薬剤師の症例報告としては十分な介入内容になります。
症例報告の具体例
症例1:アナフィラキシーショック発生後の対応
抗菌薬の有害事象の一つにアナフィラキシーショックがあります。
抗菌薬の投与直後に発生し、血圧の低下や気道狭窄などが生ます。
アナフィラキシーショックの時の初期対応はわかりますか?
そう、アドレナリンの筋注ですね。
多くの抗菌薬(実際はすべての薬剤)で起こる可能性があります。
そして、アナフィラキシーを生じた薬剤は二度と投与することはできません。
そのため、同等のスペクトルを有する抗菌薬への変更が必要になります。
自分が経験したアナフィラキシーショック症例はバンコマイシン(VCM)によるものでした。
残念ながら、レッドネック症候群ではありませんでした。
そのため、VCMを別の抗菌薬に変更しないといけません。
そこで、この介入です。
血液培養からMRSAが検出された患者さんの治療にVCMを提案した。
しかし、投与開始直後にアナフィラキシーショックが発生した。
そのため、抗菌薬の変更が必要となった。
MRSAに感受性のあるダプトマイシン(DAP)を提案した。
提案したDAPでの治療が開始された。
MRSAの治療薬はバンコマイシン、テイコプラニン、リネゾリド、ダプトマイシン、アミカシンです。
このようにVCMの使用できなく患者さんに対して代替薬としてDAPを提案するのも
適切な提案内容になります。
症例2:バンコマイシンによるAKIに対する対応
次は腎機能障害に関する症例です。
抗菌薬による腎機能障害の代表例にVCMによる急性腎障害(AKI)が挙げられます。
特に、タゾバクタム/ピペラシリンとの併用例では多くなることが報告されています。
投与開始後に急な腎機能の悪化が生じた場合、AKIを疑いましょう。
一方で、AKIの原因には様々なものがあります。
特に敗血症では循環不全によるAKIが考えられます。必ず除外できるようにしましょう。
今回紹介する症例はVCMによるAKIの症例です。
症例1と同様に他のMRSAに感受性のある抗菌薬に変更する必要があります。
患者は血液培養からMRSAが検出されたため、VCMによる治療が開始された。
しかし、投与開始後よりクレアチニン値が上昇し、AKIの可能性が疑われた。
そのため、VCMの中止とDAPへの変更を提案した。
その後AKIは改善した。

ダプトマイシン2回目ですけど大丈夫だったんですか?

大丈夫でしたよ。
VCM⇒DAPへの変更ですが、切り替えた理由が異なるため、
問題ありませんでした。
もちろん、事前に先輩が同様の事例で症例報告が通ったのを確認していました。
症例報告は原因菌、感染症名、抗菌薬、介入理由が異なるのであれば問題ありませんでした。
症例3:リネゾリドによる血小板減少に対する対応。
最後の症例はリネゾリド(LZD)です。
LZDはもともとはバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の治療約でしたが、
適応が拡大され、現在ではMRSAに対しても投与が可能です。
その一方で、乱用の耐性菌が問題になったこともあります。
また、LZDの代表的な有害事象として血小板減少が知られています。
目安として、2週間程度使用するとあっという間に血小板が下がり、中止になることもあります。
LZDを使用するなら短期決戦を目指しましょう。
リネゾリドによる血小板減少ですが、腎機能低下患者さんで起きやすいといわれています。
そんなリネゾリドによる血小板減少の症例です。
腎機能低下のMRSA菌血症患者に対してLZDが投与開始された。
投与開始14日後に血小板の低下を認めた。
そこで、LZDの中止とDAPへの変更と提案した。
その結果、血小板の減少は改善し、MRSAも消失した。

ダプトマイシン3回目だ笑

変更先の薬剤が同じでも、
変更に至る理由や変更前の薬剤が異なるのであれば問題ありませんでした。
リネゾリドまとめ
ここで、LZDの特性についてまとめてみましょう。
- MRSAにも適応がある
- 投与量は 600mg q12hr
- 腎機能、肝機能による減量の必要がない。
- バイオアベイラビリティが100%なので、注射と経口の投与量は同じ
- ジェネリックでも1錠約6,000円
- 2週間くらいで血小板減少が生じる。
- 抗うつ薬のSSRIとの併用は禁忌
結構ありますね。
特にバイオアベイラビリティが100%で唯一のMRSA治療薬、
腎機能による減量不要が最大の利点です。

すごい便利な抗菌薬だね。
誰にでも使えそう。

これが乱用の原因ですね。
また、SSRIとの薬物間相互作用もあるので注意しましょう。
原則、初回治療に使用すべきでないと思います。
自分はVCMが使用できない患者さんにやむなく使用しています。
でも、使ってますね。

症例報告では自分の症例を振り返るのにも良いですね。

失敗からも多くの学びがありますね。
ダプトマイシンまとめ
代替薬として3回登場したDAPについてもまとめてみました。
- 投与量は4mg/kg、重症例では6mg/kg q24hr
- 投与量については8-10mg/kg q24hrの高用量の議論もある
- 肺炎には使えない
- 代表的な有害事象に好酸球性肺炎やCKの上昇
このくらいですね。
特に、肺炎に使えないのは重要です。
投与量については議論が続いているので今後も情報を追っていく必要がありそうです。
有害事象として好酸球性肺炎やCK上昇があるので、
投与開始した際は定期的に測定をお願いしましょう。
まとめ
いずれも実際に症例報告で合格した症例です。
このように、有害事象に対する提案で1症例にすることができます。
残り7症例です。折り返しですね。
是非、抗菌薬の提案、症例介入を実践してみてください。
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