今回も、日本化学療法学会の抗菌化学療法認定薬剤師を
これから目指そうしている人、
目指しているけれど症例報告で悩んでいる人、
そんな先生方に自分が症例審査を通った経験を通して、
どのような介入が症例報告になるのかを紹介させていただきます。
1つ前の症例編③はこちらからご覧ください。
今回は、すべての抗菌薬の原点にして頂点、ペニシリンGに関する症例を紹介します。

ペニシリンGに切り替えた症例
初めにペニシリンの歴史を少し解説します。
ペニシリンは1928年にイギリス人のフレミングによりアオカビから発見された抗生物質です。
彼はこの功績によりノーベル賞を受賞しています。
ちなみにここ、国家試験に出ます。学生さんはしっかりと覚えましょう。

ペニシリンは昔の薬だし、もう使えないんじゃなんの

そんなことはないよ。
有効な菌種に対しては第一選択で使用できるんだよ。
ペニシリンGが有効な菌種は以下の通りです。
- 溶連菌感染症
- 感受性のある肺炎球菌
- 緑色レンサ球菌
- ブドウ球菌(一部のみ)
- 髄膜炎金
- 梅毒
など
これらの菌種に対しては、ペニシリンGは非常に有用です。
そのため、感染症の原因菌がペニシリンGに感受性のある菌であれば非常に有用な選択肢になります。
実際の症例報告です。
初期治療の広域抗菌薬からのデ・エスカレーションの症例です。
壊死性筋膜炎疑いの患者さんに対して、
入院時に経験的治療でメロペネムとバンコマイシンの投与を開始した。
創部の膿と血液培養から溶血レンサ球菌が検出された。
ペニシリンG感受性であることを確認し、
抗菌薬をペニシリンG400万単位 q4hr と クリンダマイシン 600mg q8hr
への変更を提案、実施された。
溶血レンサ球菌による壊死性筋膜炎に対してペニシリンGは有効な治療法です。
クリンダマイシンを併用するのは、細菌による毒素合成を抑制するためです。
このように1+1=2以上になる組み合わせを「シナジー効果」といいます。
もちろん、壊死性筋膜炎の有効な治療は外科的な壊死創の切除(デブリードメン)です。
壊死性筋膜炎は致死的な疾患の一つですので、しっかりと勉強しておくとよいです。
ペニシリンGによる高K血症
ペニシリンGには100万単位当たり約1.5mEqのカリウムが含まれてます。
そのため、ペニシリンG400万単位 q4hr で投与すると
36mEq/日のカリウムを投与することになります。
そのため、投与している患者さん、特に腎機能が低下している患者さんでは
高カリウム血症が生じることがあります。
そこで、介入です。
血液培養2セットから溶血レンサ球菌が検出され、
心エコーで大動脈弁に疣贅と弁破壊が見つかった感染性心内膜炎の患者に対して、
ペニシリンG 400mg q4hrの投与を開始した。
患者の腎機能は循環不全によるぞ隠然生腎不全でCcr 50ml/minに低下していた。
投与開始3日後血中カリウム値が5.5 mEq/Lに上昇した。
ペニシリンGによる高カリウム血症も考慮し、
アンピシリン 2g q6hrへの処方変更を提案、実施された。
ペニシリンGの代替薬の一つにアンピシリンが挙げられます。
アンピシリンの投与量は 2g q6hr です。
アンピシリンにはカリウムが含まれていないため、高カリウム症例での代替薬として利用できます。
ペニシリンGによるアレルギー歴のある症例
ペニシリンの有害事象に一つにアナフィラキシーショックがあります。
そのため、アレルギー歴のある人に対しては禁忌となります。
しかし、それは
1:アレルギー歴の聴取がきちんと行われていること
2:本当にアナフィラキシーの既往があること
が前提になります。
以下のようなケースではどうでしょう。
ペニシリンアレルギーの既往ありとカルテ記載のあった80台の患者
人工呼吸器肺炎が疑われた患者さんに対して、
クリンダマイシンが投与されていた。
患者家族にアレルギー歴を詳細に聴取したところ、
「こどものころに腕に少し発疹が出たことがあると聞いている」と回答があった。
また、お薬手帳より、3か月前にアモキシシリンの内服歴が確認でき、
その際も以上は認められなかったことが確認できたため、
タゾバクタム/ピペラシリン 4.5g q8hr への変更を提案した。
実際にこの後もアレルギー症状は全く生じませんでした。
このように、患者さんのいうアレルギー歴は鵜呑みにしてはいけません。
しっかりとした聴取とお薬手帳での使用薬歴の聴取を行いましょう。
まとめ
ペニシリンにまつわる症例報告でした。
古い薬ですが、いまだなお現役で使用できる薬剤ですので、
使い方をしっかりと確認して選択肢の一つにあげられるようにしましょう。
さて、残り4例まで来ました。
次回は最終回、TDM編をお送りいたします。
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