今回も、日本化学療法学会の抗菌化学療法認定薬剤師を
これから目指そうしている人、
目指しているけれど症例報告で悩んでいる人、
そんな先生方に自分が症例審査を通った経験を通して、
どのような介入が症例報告になるのかを紹介させていただきます。
1つ前の症例編④はこちらからご覧ください。
今回で症例編は最終回です。
自分の症例報告15症例が参考になれば幸いです。

TDMの症例報告についての注意点
TDM症例は3症例まで
初めに、TDMに関する症例報告の注意点があります。
それは、TDM症例は3症例までしか使用できないという制限があります。
抗菌薬の中で、TDMの対象薬剤は
バンコマイシン、テイコプラニン、アミノグリコシド系、ボリコナゾールです。
しかし、同じ薬剤であっても、介入内容が異なれば使用しても大丈夫でした。
TDMガイドラインの改定
抗菌薬TDM臨床実践ガイドラインが2022年に改定された点です。
そのため、旧ガイドラインに沿って提案した内容の症例報告が合格基準を満たしているか
明らかになっていません。
自分であれば、新規ガイドラインに沿った内容での症例報告を提出することを勧めます。
特に、バンコマイシンとテイコプラニンはこれまでの内容から
大幅改定がされています。
バンコマイシンでは効果と安全性の指標がトラフ値からAUCを指標としたものに変更されました。
テイコプラニンも初回投与量の増加と目標トラフ値の変更がありました。
いずれも大幅改定となりますので、新しいガイドラインに沿った介入をした症例報告
の提出を推奨します。
※今回提示するTDM症例は2016年版をもとに提案した内容です。
症例1:バンコマイシンのTDM症例
実際の症例報告の内容は以下の通りです。
感染性心内膜炎に対して大動脈弁置換術を行った。
血液培養からMRSAが検出されたため、バンコマイシンの投与を提案した。
バンコマイシンの目標血中濃度は15mcg/ml
患者のクレアチニンクリアランスは95ml/min
初回投与量1500mg、2回目以降は1000mg q12hr、投与開始3日後のトラフ値の測定を提案した。
3日後のトラフ値は15.2mcg/mlであったため、同量での継続を提案した。
TDM症例では、以下の6点があるとよいと思われます。
- 目標トラフ値(テイコプラニン)またはAUC/MIC(バンコマイシン)
- 投与量設定の根拠(Ccrなど)
- 初回投与量(負荷投与量)、2回目以降の投与量の提案
- 初回TDMの日程の指定
- TDMの結果を受けての提案
- 投与量を変更した際のフォローアップ
これはどの薬剤でも同じかと思いますので、必ず記載するようにしましょう。
症例2:バンコマイシンのTDMその2

バンコマイシンのTDM症例の2例目?
同じ薬剤でも大丈夫?

大丈夫だったよ。
基本的には疾患、細菌、抗菌薬がすべて同じでなければよいみたい。
腎盂腎炎が疑われた患者。
血液培養2セットと尿培養をとった後、
大腸菌を疑いセフメタゾン2g q12hrを開始した。
しかし、血液培養と尿培養から、腸球菌のE.faeciumが検出されたため、
バンコマイシンの変更を提案した。
バンコマイシンの目標血中濃度は10-15mcg/ml
患者のクレアチニンクリアランスは95ml/min
初回投与量1500mg、2回目以降は1000mg q12hr、投与開始3日後のトラフ値の測定を提案した。
3日後のトラフ値は13.5mcg/mlであったため、同量での継続を提案した。
腸球菌の尿路感染の症例でした。
TDM+適正な抗菌薬への変更の症例として症例報告しました。
腸球菌感染症の注意点は以下の通り、
Ent.faecalisにはアンピシリン
Ent.faeciumにはバンコマイシン
が第一選択になる。
腸球菌は細かいところまで確認しましょう。
第一選択薬が大きく異なります。
症例3:テイコプラニンのTDM症例
TDM最後の症例はテイコプラニンです。
これも現在は目標トラフ値が異なるので注意しましょう。
血液培養からMRSAが検出された。
医師から、テイコプラニンの投与設計を依頼された。
テイコプラニンの目標血中濃度は20-30mcg/ml
患者のクレアチニンクリアランスは120ml/min
初日と2日目は10mg/kg q12hr、3日目は10mg/kg q24hr、以降は6.7mg/kg q24hr
3日後のトラフ値測定を提案した。
3日後のトラフ値は28.2mcg/mlであったため、同量での継続を提案した。
テイコプラニンでも記載内容は同じです。
- 目標トラフ値(テイコプラニン)またはAUC/MIC(バンコマイシン)
- 投与量設定の根拠(Ccrなど)
- 初回投与量(負荷投与量)、2回目以降の投与量の提案
- 初回TDMの日程の指定
- TDMの結果を受けての提案
- 投与量を変更した際のフォローアップ
以上、TDM症例3例でした。

あれ?全部で14症例だよ
1症例足りないね

そうなんだよ。
どこにも分類できなかったのがあってね。
最後に紹介するね。
真菌の感染症管理
真菌の菌血症を経験したことありますか?
真菌の菌血症、特にカンジダ感染症で、必ず押さえるポイントがあります。
- 真菌が血液培養から出たら、コンタミは考えない。
- 治療期間は血培の陰性が確認できてから2週間は治療を継続する。
- 真菌眼内炎を疑い、眼科に診てもらう。
以上の3つは必ず押さえましょう。
真菌が血液培養から出たら、コンタミは考えない。
血液培養でコンタミとは考えない菌種の一つにあげられています。
少なくとも、血培でコンタミでない菌種には以下のものがあります。
- 真菌
- 抗酸菌
- グラム陰性桿菌
- 黄色ブドウ球菌
- 肺炎球菌
- β溶血レンサ球菌
- 緑色レンサ球菌
- 腸球菌
これらの菌が陽性になったら、戦闘態勢を取らなくてはいけません。
すぐに適切な抗菌薬、抗真菌薬を投与しましょう。
治療期間は血培の陰性が確認できてから2週間は治療を継続する。
これも重要です。
治療期間は血液培養が陰性になってから2週間です。
そのため、血液培養はしっかりとフォローしましょう。
陰性確認から2週間なので、陰性が確認できなければカウントは開始できません。
真菌眼内炎を疑い、眼科に診てもらう。
真菌の菌血症では合併症で眼内炎を生じる可能性があります。
そうなると、失明の危険が考えられます。
そのため、真菌菌血症を確認したら、必ず眼科の医師に診てもらう必要があります。
主治医の先生にもお願いして、眼科受診をお願いしてもらいましょう。
症例4:カンジダ菌血症の管理
自分が症例報告した症例は次の通りです。
血液培養からカンジダが検出された患者に対して、
ミカファンギン150mg q24hrを提案、開始された。
培養の結果、C.glabrataであることが判明した。
そのため、MCFGの投与継続を提案、投与継続された。
また、眼科医師へのカンジダ眼内炎の精査と血液培養の陰性化の確認を依頼した。
また治療開始7日目の血液培養でC. glabrataの消失が確認された。
その後、14日間の継続投与を提案し、投与が継続された。
カンジダにはいくつか種類があります。
大まかにいえばalbicans(アルビカンス)かnon-albicans(非アルビカンス)に分けられます。
C. albicansにはアゾール系が第一選択です。
一方、non-albicansのC. glabrataやC. kruseiはアゾール耐性があるため、
ミカファンギンやアムホテリシンBが適応になります。
なので、自分は血培でカンジダが出れば、まずはミカファンギンから開始し、
albicansであればアゾール系に変更する方法をとってます。
まとめ
4回に分けて投稿しました
目指せ、抗菌化学療法認定薬剤師~症例編~でした。
今回はTDMと真菌感染症についてです。
TDMは薬剤師のスキルが光る部分ですので、しっかりと介入できるようにしましょう。
ガイドラインも変わりましたので、これから学習を始める人にもおすすめです。
また、真菌感染症は出会ったときに対応できるように準備しましょう。
自分の症例は以上の15症例でしたが、後輩の症例も引き続き指導してますので
今後もまた違ったパターンの介入があれば紹介したいと思います。
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