感染症の勉強を始めようと思ったとき「抗菌薬も微生物も感染症も種類が多い」「覚えることが多くて何から勉強すれば良いかわからない」「後輩から何から勉強すれば良いか聞かれて困った」など感染症=覚えることが多いと考えている先生方も多いと思います。
自分は大学病院に勤務し10年以上ICU、外科、腫瘍内科病棟で感染症治療に介入してきました。
今回は自分が後輩からの「初めて感染症を覚える場合、どの抗菌薬から使えるようになれば良いか」という疑問の答えを考え、初めに使いこなしたい抗菌薬を10個選びました。
この記事を読むことで、初めに学ぶべき抗菌薬の特徴や使い方について学ぶことができます。
今回は残りの2種類のメロペネムとバンコマイシンを紹介します。これらのスペクトルと投与量をまとめました。広域抗菌薬と抗MRSA治療薬、いずれもしっかりと使い所を押さえて明日からの治療に活かしましょう。
初めに
抗菌薬を学習するにあたって「抗菌薬の種類が多い」ことは大きな難点です。
セフェム系だけで何種類あるの?
でも、実際に使用するのはごく一部です。今回ははじめに覚えたい抗菌薬を10個に絞って紹介するね。
初めに押さえたい抗菌薬は以下の10個です。それぞれの特徴や使い方をまとめていきます。
今回は最後の2つ、メロぺネムとバンコマイシンを紹介します。
以前紹介したペニシリン系、セフェム系の記事はこちらになります。まだ読んでいない先生はこちらもご覧ください。
メロペネム
メロペネムは広域抗菌薬のカルバペネム系抗菌薬の一つです。先生方の中には「どんな菌にでも効く」「最後の切り札」と思っている方もいるかと思います。しかし、無効な菌種はあります。また、実際の使い所は限られます。
抗菌スペクトル
メロぺネムについて、このように考えている先生はいませんか?
何にでも効くんじゃないの?
そんなことないよ。もちろん広域抗菌薬だけどだからこそ、無効な菌は確認しておこう。
メロペネムが有効な菌と無効な菌は以下の通りです。
グラム陽性球菌:黄色ブドウ球菌(MSSA)、連鎖球菌、肺炎球菌など
グラム陰性桿菌:大腸菌、緑膿菌など
耐性菌:ESBL産生菌、AmpC過剰産生菌
嫌気性菌:バクテロイデス
MRSA、腸球菌(E.faecium)、バンコマイシン耐性腸球菌、Clostridioides difficile
レジオネラ、クラミジア、マイコプラズマなどの非定型菌
ウイルス、真菌など
カルバペネムは一般的に多くの菌に対して有効です。一方で、無効の菌種もあるためこちらをしっかり確認する必要があります。また、治療できる=使っても良いというわけではありません。これまで学習した通り、各抗菌薬には第一選択となる感染症、菌種があります。なんでもカルバペネムで治療しているといつか大きなしっぺ返しが来ると思います。
そうしたらどんな感染症にカルバペネムを使えばいいの?
代表的には2つ確認しておけば大丈夫だよ
カルバペネムを第一選択で使用する症例はESBL産生菌と壊死性筋膜炎の初期治療の2つです。
カルバペネムの使い時:ESBL産生菌
ESBL産生菌には一般的にはカルバペネムが第一選択になります。タゾバクタム/ピペラシリンも有効ではありますが、比較試験の結果カルバペネムの方が予後が良いと報告されています。意見の分かれるところですが、ESBL産生菌にはタゾバクタム/ピペラシリンは勧めません。
また、全身状態のよい患者さんではセフメタゾールも選択肢の一つになります。しかし、全身状態が悪い場合や菌血症ショックのような場合は迷わずカルバペネムを投与しましょう。
カルバペネムの使い時:壊死性筋膜炎の初期治療
もう一つは壊死性筋膜炎の初期治療です。理由は、原因菌がわからないからです。もちろん、連鎖球菌が原因であればペニシリンGが第一選択です。しかし、培養結果が出るまではグラム陽性球菌かグラム陰性桿菌か嫌気性菌かわかりません。そして、もしスペクトルを外してしまうと致死的な疾患のため広域抗菌薬が第一選択になります。
もちろん培養結果が出たらデ・エスカレーションしましょう。時々複数の菌種が原因であたり、絞り込めない場合があります。このようなときは、カルバペネムを最後までカルバペネムを投与する選択肢が出てきます。
投与量
メロペネムの投与量は1g×3回/日です。しかし、髄膜炎のみは2g×3回/日での投与が認められています。髄膜炎の初期治療に使用するときは投与量に注意しましょう。
そういえばメロペネム以外にもカルバペネムはあるけど、使い分けるポイントはあるの?
特にないね。他のカルバペネムにできるとこはメロペネムにもできるし、特に優れている点もないから大丈夫だよ。
メロペネムについては以上になります。メロペネムの実際の介入については以下の記事が参考になると思います。詳しく勉強したい方、症例報告を作成したい方はぜひご覧ください。
バンコマイシン
バンコマイシンは抗MRSA治療薬の一つです。しかし、他にも用途はあります。また、TDMが必要になる薬剤ですので、投与量の計算も合わせた提案を目指しましょう。
その特徴は以下の通りです。
抗菌スペクトル
バンコマイシンはグラム陽性球菌に対してスペクトルがあります。しかし、使いどころは耐性グラム陽性球菌です。特にバンコマイシンを使用したい耐性菌は以下の通りです。
また、これらの菌を疑ったときには積極的に併用して開始しましょう。
MRSAの確定診断の前から使ってもいいの?
MRSAなどが疑われるとき、外してはいけない時は問題ないよ。それに、陰性が確認できれば中止すればいいだけだよ。
例えば、カテーテル関連感染症でグラム陽性球菌が起因菌と考えられる場合、初めにMSSAを想定してセファゾリンとMRSAを想定したバンコマイシンを併用します。
そして、原因菌が特定できればそうでないほうを中止すればよいだけです。そのためにも血液培養はきちんと2セット取りましょう。
バンコマイシンのTDM
バンコマイシンの投与ではTDMが必須になります。ここは薬剤師の腕の見せ所です。近年、ガイドラインが改定されましたのでこちらの記事を確認してみてください。
まとめ
今回は初めに押さえておきたい抗菌薬10選のうちメロペネム、バンコマイシンを紹介しました。
広域抗菌薬は使いどころが難しいですが、まず「とりあえずメロペネム」卒業を目指しましょう。バンコマイシンはTDMを含め薬剤師の腕の見せ所です。ガイドラインも確認して介入できるように頑張りましょう。
「抗菌薬についてもっと勉強したい」と思った方には岩田先生の「抗菌薬の考え方・使い方」を読んでみてください。紹介記事のリンクを貼っておきますのでご覧ください。
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