術後の予防抗菌薬、正しく使えてますか?
術後の予防抗菌薬の鑑査・確認のポイントはどこになるのでしょうか?
今回は、外科病棟の薬剤師向けの内容になっています。
術後の予防抗菌薬の介入ポイント5選を紹介します。
今回の内容は日本化学療法学会の「術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン」
をまとめた内容になります。
また、参考書籍に「周術期の薬学管理 改定2版」を用いました。
今日からの処方鑑査や患者さんへの介入に活かしましょう。
術後抗菌薬の目的
初めに術後抗菌薬の目的について確認しましょう。
結論から言えば、術後抗菌薬は創部の菌を人の免疫力で抑え込める量にするために投与します。
細菌をすべてやっつけなくてのいいの?
人には免疫力があるからね、治療に使う量でなくても
菌を抑え込めれば十分なんだよ
抗菌薬の適正使用の観点から①創部の汚染度、②手術部位の常在菌を考慮して選択し、
投与は必要最小限にすることを目指しましょう。
AMRの考え方ですね。
抗菌薬は必要最小限にしましょう。
術後抗菌薬の選択
術後抗菌薬の選択では以下の3つを確認しましょう。
一つずつ確認していきましょう。
手術創の汚染リスク評価
手術創には4段階の汚染リスクがあります。
①清潔創、②準清潔創、③不潔創、④汚染-感染創の4つです。
この4つの中で、術後抗菌薬の対象になるのは②準清潔創、③不潔創の2つのみです。
汚染-感染創に抗菌薬はいらないの?
菌がいるんだよね?
そうだよ、菌がすでにいて感染が起こているから
必要なのは「予防」でなくて「治療」だよ
ここはよく間違っていることがあるので注意が必要です。
例えば感染壊死創の手術などでは感染症の治療をしながら手術をするのが正しい方法です。
抗菌薬の選択、投与量も治療に用いる抗菌薬を治療に必要な量を投与しましょう。
手術部位の常在菌に抗菌スペクトルを有する抗菌薬を選択
次は手術部位の常在菌の確認です。
術後の感染症の多くは常在菌が創部から感染し生じます。
そのため、術後抗菌薬のスペクトルは手術部位の常在菌がターゲットになることが望ましいです。
次に菌のいる部分を考えましょう。
まず、人間の体表には主に表皮ブドウ球菌や黄色ブドウ球菌などのグラム陽性球菌がいます。
そのため、切開部位から侵入する可能性が高いのはこれらの菌です。
そして、人の中枢神経系、骨、血液、心臓、上部消化管、膀胱、尿路は基本的に無菌です。
そのため、これらの部位の手術では創部のグラム陽性球菌のみを考えれば十分です。
主に大腸などの下部消化管には大腸菌をはじめとする腸内細菌がいます。
そのため、下部消化管の手術ではこれらグラム陰性桿菌をターゲットにする必要があります。
その結果、ターゲットとなる菌種と第一選択薬は以下の通りです。
術後抗菌薬の第一選択薬にはβラクタム系が用いられます。
理由としては
- 安価であること
- 投与方法が簡便であること
- 単剤で予防が可能であること
などがあげられます。
術後抗菌薬は基本的には上記の2択になります。
どんな菌が常在しているかを考えて、その菌にスペクトルを有する抗菌薬を使用しましょう。
第一選択薬にアレルギーが無いか確認
最後にβラクタム系のアレルギーが無いか確認しましょう。
アレルギーを有する場合は以下の非βラクタム系の抗菌薬に変更しましょう。
バンコマイシンやアミノグリコシド系の場合は
TDMは必要ないの?
48時間以上使用しない場合は必要ないよ
ここまでの復習です。
この3つのプロセスを踏んで適切な術後抗菌薬を提案していきましょう。
投与量
次に投与量です。
実際の投与量はガイドラインや書籍を確認してください。
今回は基本的な抗菌薬の予防投与量だけ把握しておきましょう。
そして投与量についての注意点ですが、
患者さんの体重を確認しましょう。
体重80kg以上の患者さんでは1回あたりの投与量の増量が必要です。
セファゾリンであれば体重80㎏以上では2g/回、体重120㎏以上では3g/回が必要です。
セフメタゾールでは、体重80㎏以上では2g/回になります。
そしてもう一点、投与量での注意点は腎機能によって減量しないことです。
抗菌薬は腎機能によって減量するのかと思ってたよ
周術期の予防抗菌薬では腎機能が悪い場合、
減量でなく、投与間隔を広げる事で対応するんだよ
治療と予防の違いになるのでキチンと理解しておきましょう。
投与タイミング
次は投与タイミングです。
手術を開始するときの投与タイミングは、
原則は切開の1時間前に投与が必要です。
切開するときに抗菌薬が十分な殺菌作用を示す組織濃度が必要だからです。
ただし、バンコマイシン、レボフロキサシンについては分布の都合で2時間前に投与開始が必要です。
もちろん、バンコマイシンは1時間/1g以上かけて投与しましょう。
手術室に入る前に投与し始めることが多いかな
次に術中の再投与です。
原則となる考え方は変わりません。
術中も抗菌薬が十分な殺菌作用を示す組織濃度が必要です。
そのため、目安は半減期の2倍の間隔で投与する必要があります。
半減期2回分だと濃度が1/4になります
また、手術中では出血することもあります。
そして出血に対しては輸血や輸液を行います。
すると、結果的に抗菌薬の血中濃度が低下してしまうため追加投与が必要になります。
目安は1,500ml以上の出血があれば1回分の抗菌薬の再投与が必要です。
1,500mlは人間の血液量の約1/4にあたります。
同じなので覚えやすいですね。
投与期間
最後に投与期間です。
術後の予防抗菌薬の投与期間は原則24時間以内です。
理由は以下の2つです。
- 耐性菌発生のリスクが3日以上の投与で有意に増加する。
- 48時間以上抗菌薬を投与しても感染の発生率に差がない。
そのため、原則24時間以内の投与となります。
少なくとも、経口第3世代セフェムを7日間などは不要とされています。
適正使用の観点からも推奨されません。
まとめ
今回は周術期の抗菌薬についての介入ポイントについて紹介しました。
術後抗菌薬への介入についても抗菌化学療法認定薬剤師の症例報告に使用できました。
毎日の業務での介入と症例集積を進めてるのに役立ててください。
より深く勉強したい方には「周術期の薬剤管理」がおすすめです。
抗菌薬以外にも患者さんへの介入の役に立つ内容です。
それでは毎日の介入頑張ってください。
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