感染症の勉強を始めようと思ったとき「抗菌薬も菌も感染症も種類が多い」「覚えることが多くて何から勉強すれば良いかわからない」「後輩から何から勉強すれば良いか聞かれて困った」など感染症=覚えることが多いと考えている先生がたも多いのではないでしょうか。
自分は大学病院に勤務し10年以上ICU、外科、腫瘍内科病棟で感染症治療に介入してきました。
今回は自分が後輩からの「初めて感染症を覚える場合、どの菌から覚えれば良いか」という疑問の答えを考え、初めに覚えたい菌を10個選びました。
この記事を読むことで、初めに押さえるべき菌を理解でき、その特徴や治療薬について学ぶことができます。
今回は市中感染症の原因になる菌を5種類紹介します。黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、腸球菌、大腸菌、連鎖球菌の特徴と第一選択薬をまとめました。全てペニシリン系、セフェム系で対応可能です。
菌の前に抗菌薬について勉強したい方にはこちらの記事からご覧ください。
感染症を抗菌薬、菌、疾患の3方向から学べ、調べられる書籍に「感染症プラチナマニュアル」があります。
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市中感染で初めに覚えるべき菌の名前10選
感染症の菌を考える時に大切なことがあります。それは、市中感染と院内感染を分けて考えることです。市中感染は外来から入院してきた患者さんの感染症です。一方、院内感染は入院中の患者さんの感染症です。市中と院内では感染症の原因菌が異なります。特に、院内感染では市中感染の原因菌に耐性菌を加えて考慮した初期治療が必要です。
今回は主に市中感染の原因となる菌を5種類紹介します。
これらの菌の特徴と第一選択薬を紹介します。
黄色ブドウ球菌、日本での第一選択はセファゾリン
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は血液感染や表皮の化膿性病変、髄膜炎等、全身様々な臓器で感染症を引き起こします。今回紹介するのはメチシリン感受性の黄色ブドウ球菌(MSSA)について紹介します。その特徴は以下の通りです。
黄色ブドウ球菌の特徴
黄色ブドウ球菌は毒素を産生し、感染した組織を破壊します。肺、心臓の弁、関節、皮膚、筋組織、どこでも破壊します。そして、一か所にとどまらず他の臓器に感染の場を移していきます。特に人工血管や人工弁、人工関節等の人工物が大好きです。そのため感染が確認できたら他の臓器にも感染がないか確認する必要があります。培養で発見したら全身CTや血液培養を取って確認しましょう。
どこから見つかっても?血液培養1/2なら大丈夫だよね
血液培養で見つかったのなら1/2セットでも治療対象にしないといけないよ。
そして、MSSAが培養で出たら、全身検索は必須です。
血液培養は基本的にコンタミを防ぐ為に2セットとります。そして1/2セットでも治療対象にしいなければいけない菌を挙げます。
なお、今回紹介する菌の全てが該当します。今回紹介する計10種類は全て血培で見かけたら即治療を開始してください。そして黄色ブドウ球菌が血液培養で見つかった場合は全身CTでの検索や心エコーでの感染性心内膜炎の除外を行いましょう。特に除外しなければいけないのが髄膜炎などの中枢感染症です。
黄色ブドウ球菌の治療薬
黄色ブドウ球菌の第一選択薬はセファゾリンです。投与量は2g×3回です。
添付文書には最大5gまでって書いてあるよ
公知申請で許可されているから大丈夫だよ。
しかし、セファゾリンには中枢移行性がありません。これは、黄色ブドウ球菌感染症をセファゾリンで治療する上で最も注意しなければいけないことです。セファゾリンは髄膜炎に対しては使用できません。そのため、全身検索で中枢感染症は必ず否定しましょう。
肺炎球菌、髄膜炎に要注意
次は肺炎球菌(Streptococcus pneumonia)です。肺炎球菌は名前の通り市中肺炎の原因菌の一つです。しかし、髄膜炎の原因菌としても有名です。そして、髄膜炎では耐性化が重要になります。
肺炎球菌の特徴
肺炎球菌は気道に常在する菌の一つです。そのため、市中肺炎の原因菌の1つです。ウイルス感染症の後感染も生じることがあるので注意が必要です。また、血液感染や心内膜炎の原因となることもあります。黄色ブドウ球菌と同様の弁破壊を伴うため重症化しやすいです。そして特に注意が必要なのが髄膜炎です。
肺炎球菌=肺炎だけじゃないんだね
様々な感染症の原因になるから注意が必要だね。特に抗菌薬選択も疾患によって異なるよ。
肺炎球菌の治療薬
肺炎球菌は感受性があればペニシリンGでの治療できます。投与量は400万単位×6回です。肺炎、血液感染に対しては有効なことも多いため、原因菌が肺炎球菌と確認出来れば積極的にデ・エスカレーションしていくと良いです。
しかし、髄膜炎は別です。肺炎球菌は髄膜炎とそれ以外ではMICの設定が異なります。髄膜炎以外の肺炎球菌感染症におけるMICは8 µg/mL以上です。そしてMICは8 µg/mL以上の肺炎球菌はほとんどいません。そのため、非髄膜炎に対してほとんどの場合でペニシリンGは投与可能です。しかし、髄膜炎におけるMICは0.12 µg/mL以上になります。そのため、ペニシリンGが使用できない場合が多いです。そのため、肺炎球菌の髄膜炎に対してはセフトリアキソンやバンコマイシンで治療を行いましょう。
腸球菌、セフェム系無効です
次は腸球菌です。腸球菌の特徴はセフェム系が無効です。尿路感染だからセフメタゾールで治療開始したら実は腸球菌でしたは時々あります。そして、腸球菌には2種類があります。E.faecalisとE.faeciumです。腸球菌ではこの2種類の抗菌薬の選択を理解することが重要です。
腸球菌の特徴
腸球菌はグラム陽性球菌に分類されます。腸球菌により生じる感染症には尿路感染の一部や免疫抑制患者さんでの敗血症や感染性心内膜炎、髄膜炎の原因になります。特に、尿培養でグラム陽性球菌が検出される場合は疑うことが重要です。
腸球菌の最大の特徴はセフェム系抗菌薬が無効な点です。セフトリアキソン、第4世代セフェムのセフェピムなどの広域セフェム系抗菌薬も同様に無効です。
カルバペネムも効果がないことがあります。
また、ST合剤も効果がありません。そのため、尿路感染を疑いセフェム系抗菌薬で治療を開始したあとで培養結果を確認して急遽、方針転換となることはたまに経験します。さらに抗菌薬選択で厄介な点があります。検出される腸球菌によって有効な抗菌薬が異なる点です。
腸球菌の治療薬
腸球菌にはE.faecalisとE.faeciumの2種類がいます。E.faecalisにはアンピシリンが有効です。一方で、E.faeciumはペニシリン系、セフェム系全てに対して耐性を示します。カルバペネム系抗菌薬も無効です。そのため、E.faeciumの治療にはバンコマイシンを使います。
E.faecalisにはアンピシリン、E.faeciumにはバンコマイシン、何度もつぶやいて覚えましょう。
また、感染性心内膜炎の場合など重症感染症の場合はゲンタマイシンを併用することがあります。シナジー効果といい、互いの効果を高め合うことができます。アンピシリンやバンコマイシンに感受性があればゲンタマイシン15mg/kg、1日1回を2週間併用することもできます。
ゲンタマイシンを投与するときは腎機能注意です。しっかりTDMを行いましょう。
感染性心内膜炎の治療についての詳細はガイドラインを参照下さい。
大腸菌、尿路感染の代表
大腸菌(Escherichia coli)は市中、院内ともに尿路感染の代表的な菌になります。他にも上行性の菌血症や胆管炎、胆のう炎、腹腔内感染の原因にもなります。また地域によって耐性化の頻度が異なるため、特に初期治療においては、アンチバイオグラムを確認して治療薬を選択することが重要です。
大腸菌の特徴
大腸菌は市中、院内ともに尿路感染の代表的な菌です。他にも上行性の菌血症や胆管炎、胆のう炎、腹腔内感染の原因にもなります。また地域によって耐性化の頻度が異なるため、特に初期治療においては、アンチバイオグラムを確認して治療薬を選択することが重要です。
大腸菌の治療
大腸菌の治療は抗菌薬への感受性により異なります。一般的にはセフェム系抗菌薬のセフメタゾールやセフトリアキソンでの治療が適当です。個人的にはESBL産生菌である可能性を考慮してセフメタゾールでの治療を推奨することが多いです。
ESBL産生菌にもセフメタゾールは有効なの?
基本的にはカルバペネム系が第一選択です。でも、セフメタゾールにも感受性があるから、軽症であれば投与することも可能だね。
セフメタゾールのESBL産生菌に対する効果については以下の記事もご参照下さい。
一部ですが、感受性試験の結果、感受性がありならばアンピシリンでの治療も可能です。
連鎖球菌、溶連菌にはクリンダマイシンを忘れずに
最後は連鎖球菌(Streptococcus)です。連鎖球菌には様々な種類がいます。連鎖球菌にはほとんどの菌でペニシリンGが有効です。培養や感受性試験の結果を確認して積極的にデ・エスカレーションしましょう。
連鎖球菌の特徴
溶血連鎖球菌はグラム陽性球菌で皮膚、口腔内常在菌の1つです。溶血毒素を産生するのが特徴です。溶血毒素により組織破壊を伴うことが多いです。主に、咽頭炎や蜂窩織炎などの皮膚感染症、壊死性筋膜炎、感染性心内膜炎の原因になります。
連鎖球菌の治療
連鎖球菌感染症に対しては基本的にペニシリンGが有効です。しかし、壊死性筋膜炎に対しては溶血連鎖球菌による溶血毒素の産生を抑制することを目的にクリンダマイシンを併用します。
また、感染性心内膜炎の治療に対してペニシリンGを用いる場合は必ずMICを確認しましょう。MICが高い場合はゲンタマイシンの併用やバンコマイシンへの切り替えが必要になります。また、自然弁か人工弁かによって治療期間が異なるため治療の際はガイドラインを参照して対応しましょう。
ペニシリンGの連鎖球菌への投与方法については下記の記事もご覧ください。
おすすめ書籍
感染症を抗菌薬、菌、疾患の3方向から学べ、調べられる書籍に「感染症プラチナマニュアル」があります。
今回紹介した以外の菌や抗菌薬、感染症についても学習できるので、もう一歩深く学びたいときにもおすすめです。詳しく知りたい方はこちらの紹介記事をご覧ください。
まとめ
今回は感染症を勉強する薬剤師が初めに押さえておくべき菌の名前10選のうち主に市中感染の原因菌5種類を紹介しました。
今回紹介した菌ごとへの抗菌薬の適正治療については抗菌化学療法認定薬剤師の症例報告で使用できます。紹介記事のリンクを貼っておきますので、ご覧ください。
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