カリウムの急速静注は危険!!
薬剤師であればだれもが知っている、知っておくべき内容です。
では、その理由について説明できますか?
今回は、新人薬剤師の先生や病院実習中の学生さん、
新人教育等や医療安全で詳しく解説する機会のある方が
そのメカニズムを開設できることを目標に説明したいと思います。
カリウム3大原則
初めにカリウムの3大原則を確認しましょう。
ここは薬剤師国家試験にも頻出ですので、学生さんはもちろん、
新人薬剤師の先生や指導する立場の先生方も是非確認しておきましょう。
カリウムの投与速度 :20 mEq/hr
カリウムの調製濃度 :40 mEq/L
カリウムの1日投与量 :100 mEq/day
この3つは覚えておかないとだね。
毎年多くの事故が起こっているから
病院によってはより厳しい制限をかけるところもありうようです。
この3つはどれも守らなければいけませんが、
濃度と1日量は状況によっては容認される場合もあります。
※もちろん危険なので、本来はやらないことをお勧めします。
例えば、
心不全が進行していて、水分負荷をかけることができない患者さんの場合、
カリウムの調製濃度を濃くして水分量を減らして投与される場合があります。
また、
重度の低カリウム血症の治療のため、1日の投与量を超えて
カリウムが投与される場合もあります。
しかし、
投与速度だけは絶対に守らなくてはいけません。
その理由を考えてみましょう。
カリウムの急速静注
カリウムの急速静注は非常に危険なため、各所から注意喚起が出されています。
また、急速静注できないようなプレフィルドシリンジにした製剤の使用が推奨されています。
静脈や点滴の側管から投与できないので安心ですね
では、なぜカリウムを20 mEq/hrで急速静注するといけないか考えてみましょう。
体重50 kgの人を想像しましょう。
人間の60%が水分で、血液を含む細胞外液はそのうち1/3といわれています。
つまり、体重50 kgの人の場合、血液量は50 kg×60%×1/3=10Lとなります。
ここに20 mEqのカリウムを加えると、
血中カリウム濃度は20 mEq/10 L= +2 mEq/L増加します。
人間の血中カリウム値は3.5-5.0 mEq/Lなので、
20 mEqのカリウムを投与すると、血中カリウムは5.5-7.0 mEq/Lと約1.7倍に急上昇します。
高カリウム血症の診断はカリウム値5.5 mEq/Lになるので、
カリウム値が下限値であっても20 mEqのカリウムの急速静注でも、一気に高カリウム血症です。
カリウム値7.0 mEq/L以上では突然心停止の危険が出ます。
したがって、カリウムの急速静注は危険ということです。
高カリウム血症と心停止
次に、何故「高カリウム血症が心停止を引き起こすか?」についてです。
結論から説明すると、「細胞内にナトリウムが流入しにくくなるからです。」
えっ、カリウムでなくてナトリウムなの?
カリウムは細胞内に多く存在し、通常は膜電位が下がっています。
また、ナトリウムは細胞外に多く存在し、細胞内に一気にナトリウムが流入することで、
活動電位が発生し、心臓であれば心収縮が起こります。
そして、カリウムが細胞外に出ることで膜電位は元に戻ります。
最後に細胞内のナトリウムと細胞外のカリウムを交換し、元の状態に戻ります。
しかし、高カリウム血症では、カリウムは細胞内から細胞外に出ることができません。
その結果、膜電位は十分に下がらず、ナトリウムの流入(活動電位)が生じにくくなります。
その結果、心収縮が起こせなくなり、心停止となります。
高カリウム血症での心停止は
心臓が収縮しないで起こるのです。
高カリウム血症の治療
最後に高カリウム血症の治療についてです。
基本戦略は以下の3つです。
- 膜電位の正常化
- 血中カリウムの正常化
- カリウムの排泄促進
膜電位の正常化
心電図にP波の消失やQRS幅の増大を認める場合は、膜電位の正常化が必要になります。
具体的な方法は10%グルコン酸カルシウム10~20mLの静脈内投与です。
これにより、膜電位が正常化し、心収縮への影響を改善することができます。
病棟の救急カートに
カルシウム製剤が置いてあるのはこのためなんですね。
しかし、この効果は30分ほどで消失します。
そのため、血中カリウムの低下のための処置を行います。
血中カリウムの正常化
次に血中カリウムの正常化を行います。
代表的な方法にインスリンの投与があります。
どうしてインスリンなの?
血糖値が下がっちゃうよ
インスリンはブドウ糖を細胞内に取り込むとき、同時に血中のカリウムも細胞内に取り込みます。
この作用を利用して、血中のカリウム値を下げることができます。
具体的には、インスリンを5-10単位程静注します。
ただし、低血糖を予防するためにブドウ糖の投与を忘れてはいけません。
50%ブドウ糖の静注や10%ブドウ糖の点滴静注が行われます。
また、教科書に載っている方法に
サルブタモールの吸入があります。
β受容体を刺激し、Na-Kポンプを活性化し、細胞内にカリウムが取り込まれるのを利用しています。
ただし、循環器に障害のある人には禁忌なので気をつけましょう。
カリウムの排泄促進
最後はカリウムの排泄促進です。
血管内のカリウムは減少できても、身体の中には残っているので、
しっかりと排泄させることが必要です。
具体的には、フロセミドの投与で尿中排泄を促進し、
ポリスチレンスルホン酸ナトリウムで消化管からの吸収を抑制します。
また、
腎機能が悪く、排泄が不十分な場合や、
カリウム値が高値の場合は、
人工透析によるカリウムの排泄も必要になります。
まとめ
カリウムの急速静注が危険な理由は
計算上、20 mEqの急速静注は体重50 kgの人では、血中カリウム濃度+2.0 mEq/Lになるから。
また、高カリウム血症による心停止は膜電位が下げられないことによる収縮不全。
高カリウム血症の際は、①膜電位の正常化、②血中カリウムの正常化、③カリウムの排泄促進。
以上についてしっかりを覚えておくと
国家試験や新人教育、多職種向けの勉強会などの訳に立つと思います。
おすすめ書籍
最後に、高カリウム血症を含めた電解質について勉強するのにおすすめの書籍を3つ紹介します。
注射薬Q&A-注射・輸液の安全使用と事故防止対策
病院実習に来る薬学性や新人薬剤師さんにおすすめの書籍です。
初めて電解質を勉強するのに難しすぎず、でもしっかりと基礎となる部分を
まとめてくれている書籍です。
2013年発刊の書籍になりますが、まだまだ現役で使うことができるそんな1冊です。
より理解を深める!体液電解質異常と輸液 改定第3版
基礎はしっかりと勉強して、さらにもう数段階深いところを学びたい方向けの書籍です。
内容はかなり難しいです。
しかし、体液・電解質についてしっかりとまとめられている書籍です。
内科の医師、研修医向けの書籍で、一朝一夕では理解できませんでした。
5年くらいかかって理解していくイメージです。
体液異常と腎臓の病態生理 第3版
最後は、自分が2年目の時に内科の医師に進められて読んだ書籍(当時は第2版)です。
腎機能と体液、電解質についてまとめられた書籍で、
自分もこの書籍を通して、電解質異常について深く勉強できた一冊です。
電解質異常を病態生理からきちんと説明されていて、
体の中全体がイメージできるようになりました。
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