感染症の勉強をしていると「真菌の感染症に出くわしてしまった」「最近の治療だけでも大変なのに真菌まで覚えきれない」「抗真菌薬もほとんど使うことがないからよくわからない」「後輩から何から勉強すれば良いか聞かれて困った」など感染症=覚えることが多いと考えている先生方も多いと思います。
自分は大学病院に勤務し10年以上ICU、外科、腫瘍内科病棟で感染症治療に介入してきました。
今回は自分が後輩からの「初めて真菌の感染症を覚える場合、どの真菌から覚えるといいか?どの抗真菌薬から使えるようになれば良いか」という疑問の答えを考えました。
この記事を読むことで、初めに学ぶべき真菌や抗真菌薬の特徴や使い方について知ることができます。
今回は代表的な真菌のカンジダとアスペルギルス、抗真菌薬を3種類紹介します。これらの特徴と抗真菌薬の使い方をまとめました。真菌治療の考え方は特殊なので、しっかりと考え方を覚えて、明日からの治療に活かしましょう。
初めに覚えるべき真菌と抗真菌薬
真菌と抗真菌薬を薬を学習する上でも抗菌薬と同様に「種類が多い」ことは大きな障壁です。
でも、実際に遭遇したり、使用するのはごく一部です。今回ははじめに覚えたいものに絞って紹介するよ
今回紹介する真菌はカンジダ属のみです。また、抗真菌薬はアゾール系、ミカファンギン、アムホテリシンBの3種類です。
代表的な真菌
今回は代表的な真菌症の原因となるカンジダ属とアスペルギルス属を紹介します。
カンジダ属
カンジダ属は真菌の中でも最も病棟で遭遇する可能性のある真菌です。しかし、カンジダ属といってもその種類は非常に多いです。今回は代表的なCandida属と有効な抗真菌薬、基本的な治療戦略について紹介します。
カンジダ属の分類と治療薬
はじめにカンジダ(Candida)属の分類について紹介します。今回は真菌治療の基本的な真菌の紹介が目的ですので、シンプルにCandida albicansとそれ以外(non-albicans)に分けて考えましょう。特に治療薬の選択を考える場合もこれで十分なことが多いです。Candida albicansにはアゾール系の抗真菌薬が有効です。一方、non-albicansに対してはアゾール系の抗真菌薬が無効になることが多いため、キャンディン系が使用されます。
まずは、大まかにこれだけ覚えていくと良いと思います。
そのため、カンジダ属が検出された場合、初めはキャンディン系で治療を開始します。そして、カンジダ属の分類結果が出るのを待ちます。アゾール系が有効なCandida albicansであれば抗真菌薬をアゾー系に変更して治療を継続します。もし、non-albicansであればキャンディン系でそのまま治療を行います。
カンジダ属の治療での注意点
次にカンジダ属の治療における注意点を紹介します。注意すべきポイントは以下の3つです。
血液培養1/2セットが陽性でも治療開始
血液培養2セット中、1セットが陽性でも血液感染ありとして治療を開始しなければいけない菌類があります。
その一つがカンジダ属です。基本的には血液培養からカンジダが検出される場合は、コンタミネーションの可能性は低いです。1セットでも陽性になったら治療を開始しましょう。
治療期間は血液培養が陰性かしてから14日間
次に治療期間についてです。Candida属が血液培養陽性になった場合の治療期間は「血液培養が陰性化」してから14日間です。よくある勘違いとして、14日間治療を行うことが挙げられますが、治療期間としては不適切です。必ず、治療を開始した後も血液培養を確認して、カンジダの陰性化の確認が必要です。
血液培養の陰性化を確認しないと治療終了の時期がわからないからね
投与漏れのないように、陰性化したあとの分をあらかじめ医師に処方してもらうのも良いです。
必ず眼科でカンジダ眼内炎を確認
最後にカンジダ眼内炎の除外についてです。カンジダ属の血液感染の患者さんの一定数にカンジダ眼内炎を合併します。合併した場合は失明のリスクもあるため、必ず確認する必要があります。可能な限り早い段階で、眼科の医師に確認を依頼しましょう。
また、カンジダ眼内炎であれば眼に移行性のよい抗真菌薬を用いる必要があります。眼は発生学上は中枢と同じ扱いになるため、中枢移行性の悪い抗真菌薬は使用できません。具体的には、キャンディン系の抗真菌薬は中枢移行性が不良です。non-albicansの場合はアムホテリシンBとフルシトシンの併用両方への変更を検討しましょう。また、治療期間は4−6週間と長期になります。
カンジダ治療のポイントまとめ
以上が、代表的な真菌であるカンジダ属とその治療方法です。ポイントは3つです。
治療開始時には確認して、一つづつ実施していきましょう。
アスペルギルス属
次はアスペルギルス属です。アスペルギルスは主に呼吸器疾患を生じます(肺アスペルギルス症)。
アスペルギルス感染症の治療
アスペルギルスに対してはボリコナゾールが有効で第一選択薬として用いられます。もし、アゾール系による薬物間相互作用で使用しにくい場合はアムホテリシンBが用いられます。
肺アスペルギルス症の鑑別疾患にムーコル症があります。ムーコル症の原因の接合真菌にはアゾール系、ミカファンギンが無効です。そのため、治療にはアムホテリシンBが用いられます。鑑別がまだの場合や鑑別が困難な場合は、両方に有効なアムホテリシンBを用いて治療を開始するので覚えておきましょう。
アスペルギルス症については、まず第一選択がボリコナゾールであることを覚えておきましょう
代用的な抗真菌薬
次に代表的な抗真菌薬について紹介します。今回紹介する抗真菌薬は5種類です。
真菌でもスペクトルを覚えて、適切な抗真菌薬を用いて治療することが大切です。特に、同じ属でも無効な菌種があるので、属名だけでなく名前全体を見る週間をつけましょう。
フルコナゾール、ホスフルコナゾール
特徴
フルコナゾールを含めたアゾール系は、真菌の細胞膜成分のエルゴステロールの産生を抑制することで抗真菌作用を示します。また、腸管からの吸収や組織移行性もよく、髄膜炎や眼内炎に対しても投与することが可能です。
アゾール系全般に言える注意点として、強力なシトクロムP450のCYP3A4の阻害作用を有します。そのため、ワルファリンやシクロスポリン、睡眠薬との併用には注意が必要です。
感受性
フルコナゾールとそのプロドラックのホスフルコナゾールはアゾール系抗真菌薬の一つで、Candida albicansの第一選択薬です。また、C. tropicalisやC. perapsilosisにも感受性があります。一方、C. glabrataやC. kruseiのほとんどはフルコナゾールに耐性です。そのため、カンジダ属であることがわかった時点での経験的な治療に使用することは難しく、アゾール系に感受性のあることを確認してから変更することが望ましいです。
フルコナゾールは、クリプトコッカス属にも有効です。しかし、アスペルギルス属に対しては通常用いることはありません。
用法容量
通常は初回と2回目の投与量:800mg/日、維持投与量:400mg/日を投与します。1点注意することがあり、日本では初回投与量はプロドラックのホスフルコナゾールに歯科適応がありません。サンフォードなどではフルコナゾールでも記載されているので注意しましょう。
また、腎機能に夜減量が必要で、Ccr=50ml/分以下では半量を投与、透析患者では透析後に通常量を投与しましょう。
また、バイオアベイラビリティーが良い(約90%)ため経口薬に変更することも可能です。
副作用
代表的な副作用に肝機能障害があります。肝逸脱酵素が増加することがあるので注意しましょう。しかし、一般的には比較的副作用が少ない抗真菌薬です。
ボリコナゾール
感受性
肺アスペルギルス症(特に、侵襲性肺アスペルギルス症)の第1選択です。カンジダ属に対してはフルコナゾールがあるため、ほとんど使用することはありません。また、アムホテリスンBに対して耐性のあるFusarium属にも効果があります。
投与量
注射剤では初回は6mg/kgを12時間おきに2回投与した後、4mg/kgを1日2回投与します。注意点は、腎機能低下症例(CCr≦30-50)では添加物のシクロデキストリンの蓄積による腎障害が問題となるため投与できません。代わりに経口薬を使用しましょう。
経口薬の場合は、初回は400mgを12時間おきに2回投与した後、200mgを1日2回投与します。経口の場合は腎機能にかかわらず投与可能です。ボリコナゾール自体は肝代謝です。そのため、尿路感染に使用できないことも覚えておきましょう。
また、ボリコナゾールはTDMが必要です。目標トラフ値は1-2 μg/mL以上です。4-5 μg/mL以上で肝障害や視力障害のリスクが上がるため気をつけましょう。日本人の20%は代謝能が低いため、注意が必要です。
副作用
代表的な副作用には、肝障害の他に可逆性の視力障害があります。本や新聞の字が読みにくくなったら教えてもらいましょう。
ミカファンギン
特徴
キャンディン系のミカファンギンは、真菌のβDグルカンの合成を抑制し、細胞壁の合成を阻害することで、抗真菌作用を示します。経口の薬剤はなく、他にも同系列にカスポファンギンもあります。中枢への移行性はよくないため、髄膜炎や眼内炎に対しては使用することができません。また、尿路感染に対しても使用されたデータが少ないため注意しましょう。
アゾール系にある薬物間相互作用がないため、薬物間相互作用を回避するためにも使用できます。
感受性
主にカンジダ属とアスペルギルス属をカバーします。しかし、アスペルギルス属にはボリコナゾールがあるので、基本的にはカンジダ属に対して投与されます。特に、C. glabrataやC. kruseiなどのフルコナゾールに耐性のある真菌に対して有効な抗真菌薬です。また、クリプトコッカスやムーコルには効果がありません。
用法容量
投与量は100-150mg/日、 1日1回の投与です。最大は300mgまで投与可能です。また、腎機能による減量の必要はありません。
副作用
副作用は比較的少なく、肝障害、血栓性静脈炎、頭痛などがあります。
アムホテリシンB
特徴
アムホテリシンBは真菌の細胞膜のエルゴステロールに結合して、細胞膜を破壊することで抗真菌効果を発揮します。また、フリーラジカルを発生させて細胞膜を直接破壊する効果もある様です。
有害事象には発熱や腎機能障害や低カリウム血症、低マグネシウム血症、アシドーシス、静脈炎などがあります。しかし、リピッドフォーム製剤(商品名:アムビゾーム®︎)になってから悪寒、腎機能障害の有害事象は減りました。
感受性
アムホテリシンBはカンジダ属やアスペルギルス属、クリプトコッカス、接合菌に効果があり、スペクトルは非常に広いです。この様にスペクトルが広い薬剤の場合は、無効な菌種を覚えるのが良いです。無効な真菌はCandida lusitaniae、Fusarium spp.、Aspergillus terreusなどが挙げられます。
また、移行性についてですが、。移行性はよく、髄液移行性のデータは少ないですが、髄膜炎や眼内炎には使用できます。経口剤もありますが、消化管吸収は不良のため、点滴静注のみで治療しましょう。
投与量
投与量は2.5-5mg/kgを24時間おきに投与します。投与時間は1−2時間かけて行います。注意点は腎毒性はありますが、腎機能の変化によって排泄速度は変わらないため減量は必要ありません。
アムビゾーム®︎は調整に注意点があります。まず、1バイアルあたり12mlの注射用水で溶解します。そして、希釈には5&ブドウ糖液を用います。希釈するときは附属のフィルターを通すのを忘れないようにしましょう。箱の中に説明用紙があるので確認しておくと良いと思います。
フルシトシン
特徴
フルシトシンは、体内でフルオロウラシルに代謝され、DNA合成を阻害することで、抗真菌作用を示します。経口剤のみで、注射剤はありません。
中枢への移行性はよくないため、髄膜炎や眼内炎に対しては使用することができます。しかし、単剤ではすぐに耐性化してしまうため、併用でのみの使用が推奨されます。
感受性
カンジダ属、アスペルギルス属、クリプトコッカス属に対して有効です。
主な用途として、クリプトコッカス髄膜炎にアムホテリシンBと併用して使用します。また、カンジダ属の中枢感染・眼内炎、感染性心内膜炎で、アゾール系に耐性のある菌種に対して、アムホテリシンBと併用されます。
用法容量
投与量はクリプトコッカス属に対しては25mg/kgを1日4回内服します。また、カンジダ属に対しては12.5mg/kgを1日4回内服します。なお、腎機能によって投与量調整が必要なので注意が必要です。
副作用
副作用には骨髄抑制があるため注意が必要です。また、肝障害を起こすこともあります。
まとめ
今回は代表的な真菌と抗真菌薬について紹介しました。細菌感染の治療が長期間になると遭遇する機会も多くなると思います。まずは今回紹介したものから確認して、薬物治療への介入に役立ててください。
また、感染症治療全般について記事をまとめていますので、そちらもご確認ください。
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