薬学部の学生さんにとって、10週間の薬局と病院での実務実習は長く大変なイベントであると思います。その一方で、指導に当たる薬剤師さん、特に新人、若手薬剤師さんにとっては「実習生にどんなことを教えたらいいのかわからない」「自分でも十分理系できていないのに説明できない」ということが悩みの一つだと思います。
薬学部では、教育学部とは異なり「教育」に対する教育を受ける期間はほとんどなく、実務実習に関する教科書や書籍も概念のみであることが多く、実際に「何を教えるのか」について学習する機会は少ないと思います。
自分は、卒業後に大学病院に就職し、指導側として実務実習に関わって10年以上が経過しました。その間で多くの新人薬剤師に学生指導に対する指導内容について指導をしてきました。
そんな自分がおすすめする指導内容は「国試の過去問を元に指導する」ことです。
薬学部の学生にとって最も関心のあることの一つに「薬剤師国家試験で得点に繋がるか」が挙げられます。そのため、国試の過去問を参考に指導内容を組み立てることで、学生の興味を引きかつ国試の得点に繋げてもらうことができます。
また、国試の内容は「薬剤師に当たり前に知っていて欲しいこと」と考えると、指導者側もレベルアップすることができると思います。
しかし、今から国試を見直すのも大変だと思うので、今回は「点眼液、点鼻液の服薬指導」で必要な情報をまとめました。この内容があなたの実務実習の指導に役立てれば幸いです。
点眼液の使い方のポイント
点眼液の服薬指導でのポイントは①基本的な使い方、そして②点眼液を使う順番についてです。特にここ数年②の点眼液の使う順番の問題が出題されています。そのため、学生さんへの指導もこの「順番の考え方」を教えられるようになると良いと思います。
基本的な点眼液の使い方
点眼液の基本的な使い方は以下の通りです。
この4段階で考えましょう。
特に重要な点を抜粋して解説します。
点眼は1滴のみ
点眼は下まぶたを引いて1滴のみ指して下さい。点眼液が入る結膜嚢の容量は約20 μLと言われています。一方、点眼液の1滴は通常40-50 μLです。2滴目以降は入ることもなさそうですね。
実際に2滴以上指すと有害事象の報告もありますので、必ず1滴と指導しましょう。
点眼後は瞬きしないで目頭を1分間押さえる
点眼後に瞬きをしている患者さんがいますが、それは間違った使い方です。点眼後は基本的にはまぶたを閉じて、瞬きをしないで約1分間目を閉じておくように指導しましょう。
また、点眼後に軽く目頭を押さえるようにしましょう。これは、結膜嚢に入りきらない点眼液が鼻に抜けて、全身作用を生じる原因になります。
そのため、患者さんには、点眼後に瞬きをせず、静かに約1分間目を閉じ、目頭を押さえるように指導してください。
点眼液の基本的な使い方は以上になります。
点眼液を使う順番
次にここ最近の出題テーマとなっている点眼液の使う順番について確認しましょう。点眼液の種類は様々なものがありますが大きく5つ(実質4つ)にグループわけして考えると簡単です。
まず、点眼液のグループを確認しましょう。
患者さんが点眼液を複数使用する場合のルールの基本は3つです。
点眼液使用時のコンタクトレンズの使用
点眼液の使用時にコンタクトレンズをしても良いかについては患者さんへの指導が必要な内容です。これまでの国家試験でも出題されているので、該当する点眼液の指導をする時は学生さんに確認する機会を作ってあげましょう。
コンタクトレンズを使用している場合に注意が必要な添加剤の成分に防腐剤の「ベンザルコニウム」があります。点眼後にソフトコンタクトレンズをすぐに着用すると、ベンザルコニウムが吸着して角膜炎の原因になるので注意しましょう。
対応としては、理想的には使用する間はメガネを使うことですが、コンタクトレンズをつける場合は点眼後に15分以上空けてからつけるように指導しましょう(添付文書より)。
実際の国試に挑戦
それでは実際に問題を解いて確認しましょう。
109回 問262
この問題は緑内障と白内障の治療で複数の点眼液を使用する患者さんへの指導です。先ほど確認した原則にしたがって確認しましょう。
解説です。
1:点眼液は同時ではなく、5−10分は開けないといけないので不適切です。
2:処方3は懸濁点眼液に該当するので、水溶性点眼液の後になるので不適切です。
3:点眼液のつか方とは論点がズレるので省略しますが不適切です。
4:毎回振ってから使うのは懸濁性点眼液(今回の処方3)の内容なので不適切です。
5:点眼液は全身作用を有することもあるので注意が必要です。これが正解です。
選択肢4以外は点眼液の服薬指導の原則を知っておけば正解できそうですね。
108回 問276
この問題は緑内障の点眼液の指導に関する問題です。緑内障は2剤併用する患者さんは多いので実際の指導を通して確認しましょう。
1:持続性=ゲル化製剤と考えるとこちらが後にするのが適切です。そのため不適切な記載です。
2:ゲル化点眼液は点眼後にベタベタすることがあるのであらかじめ説明しておくといいです。この記載は正解です。
3:点眼後の瞬きはNGでした。この記載は不適切です。
4:これは薬理の問題にもなりますね。β受容体拮抗薬は全身作用で血圧が下がるのでしっかり目頭を押さえるように指導してください。この記載は不適切です。
5:繰り返しになりますが、点眼液は同時ではなく、5−10分は開けないといけないので不適切です。
この問題も選択肢4以外は基本的な服薬指導ができれば問題ないですね。
106回 問280
この問題も緑内障の点眼液の指導に関する問題です。緑内障の患者さんは多いので、服薬指導のチャンスがあればぜひやらせてみましょう。
1:ダメです(笑)。むしろ順番が大事です。
2:処方1、2が水溶性点眼液、処方4が懸濁性点眼液になるので少なくとも処方4が最後になっていればOKです。そのため朝は処方2→処方4の順番で正解です。
3:選択肢2で解説した通り、処方4が最後になるようにしましょう。そのため、不適切な記載になります。
4:懸濁液は使用する前に振っておくことが必要です。そのためこの選択肢は正解です。
5:点眼液は原則1回1滴です。そのためこの記載は不適切です。
この問題は順番に関する原則がわかっていれば簡単ですね。
緑内障の点眼薬に関する問題は出題される可能性が高いので実習ではぜひ学生さんに体験させてあげると良いと思います。
109回 問201
この問題は選択肢1をみてもらいたくて選びました。
成分が記載されており、ベンザルコニウムが含有されていることがわかるので、コンタクトレンズをつけながらの使用は不適切になります。
成分が書いてあるのは親切な問題ですね。
点耳液の使い方のポイント
これまでは主に点眼液に関する出題が多い傾向だったのですが、108回の出題で点耳液の使い方に関する問題が出題されましたので合わせて確認したいと思います。
点耳液の患者説明でポイントとなるのは以下の点です。
※医師からの指示がある場合はそちらを優先
点耳液の患者指導では点眼液と異なり5滴ほど滴下する点が異なるので、実習生が指導する際に混乱しないように気をつけたいですね。
また、点耳液は冷たいまま使用するとめまいの原因になるため必ず体温程度に温めて使用することを伝えましょう。
108回 問224
小児への点耳液の問題です。小児は中耳炎や外耳炎で点耳液を使うことも多いので、保護者への説明を通して国試対策に必要な知識を確認できるようにしましょう。
1:痛みやめまいを感じたら使用を中止して医師へ相談することが望ましいです。そのため記載は不適切となります。
2:点耳液は冷たいまま使用するとめまいの原因になります。そのため温めてから使用するように説明しましょう。記載は不適切となります。
3:耳たぶを引っ張ることで、薬液が耳の奥までしっかり入れることができます。この記載は正解です。
4:点耳液は点眼液と異なり1滴では不十分です。そのため記載は不適切となります。
5:今回は用法に耳浴とあるため、10分間は横になってもらうよう説明しましょう。そのため、記載は不適切となります。
点耳液の服薬指導は108回が初でした。今後は既出問題になるので確認しましょう。
まとめ
今回は点眼薬、点鼻薬に関する国家試験問題を元に、実務実習での指導内容を考えてみました。指導にあたる薬剤師さん以外にも実務実習中の学生さんも国試を意識して実習に臨んでみてください。
普段はX(旧Twitter)では「脱若手、脱新人したい」、「学生実習で話すネタがないよ」そんなお困りの若手・新人薬剤師の先生方に平日の朝に「へー」と思える薬の情報発信しています。
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