今回は2022年に改定されたばかりの
抗菌薬TDM臨床実践ガイドラインの改定のポイント、
中でもバンコマイシンのTDMのポイントについてまとめました。
TDMが苦手で何をすればよいかわからない人、
新しいTDMガイドラインの改定点を知りたい人は
是非ご覧ください。
※今回はわかりやすく要約することを目的としましています。
※※実際に治療に用いる場合は原著を確認したうえでTDMを行ってください。
バンコマイシンのTDM対象となる症例
初めに、バンコマイシンのTDMの対象となる症例についてです。
TDMの目的は、①治療効果の担保、②有害事象の防止になります。
バンコマイシンの改訂版TDMガイドラインでは特に、
有害事象、特に急性腎不全の発症の防止に重きを置いているようです。
TDMの対象患者にあげられている患者は以下の通りです。
- 治療目的でのバンコマイシン投与を行う場合。
- 血中濃度の予想が困難な患者に投与する場合。
- 急性腎障害の発現リスクを有する患者に投与する場合。
治療目的での使用例では、TDMの実施が推奨されます。
治療以外、術前の感染予防目的など以外ではTDMを行うことが望ましいようです。
MRSA感染が疑わしい時に使うのにも予防になるの?
それも治療目的だね。
バンコマイシンはMRSA感染を考慮するときに、
治療目的での投与が望ましいよ
また、血中濃度の予測な困難な症例には以下のような場合が挙げられています。
重症感染症、腎障害(透析を含む)、造血器腫瘍、発熱性好中球減少症、心不全、
浮腫、脱水状態、熱傷、肥満、痩せ
当てはまらない症例の方が少なそうですね
また、急性腎障害の発現リスクの高い症例には以下のような場合が挙げられています。
腎障害(透析を含む)、利尿剤の使用、タゾバクタム/ピペラシリンの併用
タゾバクタム/ピペラシリンは緑膿菌をカバーできる広域抗菌薬で、
バンコマイシンと併用する事例をみかけると思いますが、
メロペネムとバンコマイシンを併用する場合と比較し、
タゾバクタム/ピペラシリンとの併用は有意に急性腎障害の発症を増加することが報告されています。
どうしても緑膿菌とMRSAの両方をカバーしたいときは、
メロペネムやセファロスポリンへの変更をお勧めします。
TDMに使用する指標
今回の改定で最も重要な部分になります。
今まではトラフ値を指標にしてTDMをしていたよね
新しいガイドラインではAUCを指標にTDMを行う
ことが推奨されているよ
これまでは、トラフ値10-20μg/mLとなるように投与量を調整することが推奨されていましたが、
これからはAUCを指標とした投与量の設計をすることが推奨されます。
日本化学療法学会などから、専用の計算ソフトも出ています
このソフトでは、
トラフ値1点のみでもAUCを計算することができます。
しかし、重症/複雑性MRSA感染症や腎機能低下症例、腎機能低下リスクにある症例では、
トラフ値とピーク値の2点採血によるAUCの評価を行うことが推奨されています。
なお、採血のタイミングは以下が推奨されています。
- バンコマイシン投与3回目の投与時にTDMを実施する。
- トラフ値は投与30分前に採血する。
- ピーク値は投与終了後、1-2時間後に採血を行う。
医師には測定タイミングを指定してコメント入力してもらうと間違いが減ります。
また、看護師さんにも当日のスケジュールをお伝えするようにすると成功率が上がります。
計画することがゴールでなく、
実際に実行してもらうことがゴールです。
バンコマイシンの投与設計
バンコマイシンの投与は以下が推奨されています。
- 初回負荷投与:25-30mg/kg(実測体重)
- 維持量:腎機能正常であれば15-20mg/kg(実測体重)q12hr
- 投与速度は1000mgあたり1hr以上かける
- 目標とするAUC/MIC=400-600µg・h/mL
- 急性腎障害を考慮する場合はAUC/MIC=400-500µg・h/mLを考慮する
初回投与量は腎機能によらず行うことが推奨されています。
腎機能が悪くてもいいの?
腎機能が低下している人には
維持投与量と投与間隔で調整するんだよ
そして、3回目の投与時にTDMを行って、ソフトを用いて、
ACU/MIC=400-600µg・h/mLとなるように調整しましょう。
腎機能低下時の維持投与量の目安は以下の通りです。
CLcr100ml/分 ➡1250mg q12hr
CLcr80-90ml/分 ➡1000mg q12hr
CLcr60-70ml/分 ➡750mg q12hr
CLcr40-50ml/分 ➡500mg q12hr
CLcr30ml/分 ➡500mg q24hr
次に投与速度です投与速度は1000mgあたり1hrはかけましょう。
レッドネック症候群の予防ですね。
国家試験にも出題されるので覚えておきましょう
目標とするAUC/MIC=400-600µg・h/mLになります。
MICって何?
MICは、Minimal Inhibitory Concentrationの略で、日本語では最小発育阻止濃度です。
わかりやすく説明すると、菌が発育しなくなる抗菌薬の最小濃度です。
一般的なMRSAのMIC=0.5-1.0μg/mLです。
一方で、MRSAの中にはMIC2以上になっている菌がいます。
その場合、MIC=1μg/mLと比較すると、
MIC=2μg/mLのMRSAに必要なバンコマイシンの投与量2倍になります。
そのため、投与量の上限4000mg/日を超えてしまいます。
このような場合は、他の抗MRSA治療薬への変更が望ましいです。
以上を踏まえて、バンコマイシンの投与を行いましょう。
※補足
バンコマイシンのTDMでピーク値とトラフ値を測定し、
AUC/MICで評価するのは安全性を優先した方法です。
しかし、髄膜炎と骨髄炎についてはAUC/MICでのエビデンスがまだそろっていません。
そのため、目標トラフ値15~20 µg/mlでの投与設計も考慮するとなっています。
もうしばらくは現行の方法での投与設計がよさそうです。
(自分はAUC/MICでの安全性の確認はしていこうと思います。)
まとめ
バンコマイシンの新規ガイドラインの内容についてまとめました。
主な変更点は以下の3つです。
- 指標がトラフ値からAUC/MICに変更
- 必要に応じて、ピーク値とトラフ値の2点採血が推奨
- 初回負荷投与を行い、腎機能低下時は維持投与量で調整
今回の改定でTDMは大きく変わったので、
これから勉強する人にもチャンスです。
学ぶことも大切ですが、実践して成功、失敗の原因を考えてレベルアップしていきましょう。
また、TDMの症例は抗菌化学療法認定薬剤師の症例報告にもなりますので頑張ってください。
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