感染症の勉強を始めようと思ったとき「抗菌薬も微生物も感染症も種類が多い」「覚えることが多くて何から勉強すれば良いかわからない」「後輩から何から勉強すれば良いか聞かれて困った」など感染症=覚えることが多いと考えている先生方も多いと思います。
自分は大学病院に勤務し10年以上ICU、外科、腫瘍内科病棟で感染症治療に介入してきました。
今回は自分が後輩からの「初めて感染症を覚える場合、どの抗菌薬から使えるようになれば良いか」という疑問の答えを考え、初めに使いこなしたい抗菌薬を10個選びました。
この記事を読むことで、初めに学ぶべき抗菌薬の特徴や使い方について学ぶことができます。
今回はペニシリン系抗菌薬を4種類紹介します。ペニシリンG、アンピシリン、スルバクタム/アンピシリン、タゾバクタム/ピペラシリンのスペクトルと投与量をまとめました。ペニシリン系は感染症治療の基本です。しっかり押さえて明日からの治療に活かしましょう
初めに
抗菌薬を学習するにあたって「抗菌薬の種類が多い」ことは大きな難点です。
セフェム系だけで何種類あるの?
種類はたくさんあるけど、実際によく使うものはそんなにないんだよ。
今回はよく使う10個の抗菌薬に絞って紹介するね。
初めに押さえたい抗菌薬は以下の10個です。それぞれの特徴や使い方をまとめていきます。
今回はペニシリン系抗菌薬のペニシリンGとアンピシリン、スルバクタム/アンピシリン、タゾバクタム/ピペラシリンの4つを紹介します。
ペニシリンG
初めて発見された抗生物質ですが、いまだ現役、最前線で活躍しています。その特徴は以下の通りです。
抗菌スペクトル
ペニシリンGは肺炎球菌や連鎖球菌などに対して有効です。抗菌スペクトルは狭いですが、ペニシリンGに感受性のある菌に対しては積極的に使用して問題ありません。もちろん初回治療をペニシリンGで開始は難しいですが、感受性試験の結果を確認してデ・エスカレーションの変更先として積極的に使っていきたいです。
投与量
ペニシリンGの投与量は400万単位×6回/日です。ペニシリンGは溶解後の安定性が良くないので頻回に交換しないといけません。看護師さんにお願いして協力してもらいましょう。単位と聞くとピンとこないかもしれませんが、100万単位=600mgといわれています。そのため2.4g×6回/日になります。
カリウム含有量
ペニシリンGにはカリウムが含まれます。標準の投与量(400万単位×6回/日)では1日当たりカリウム36mEqが投与されます。そのため、腎機能低下患者やカリウムが高めの患者さんでは注意が必要です。
高カリウム血症や腎機能が低下した患者さんに対しては対策が必要です。具体的な対策として、他からのカリウム摂取量を抑える、またはアンピシリンに変更しましょう。
また、カリウムにより静脈炎や血管痛を生じることもあります。患者さんとお話する際には確認しておきましょう。
MICを確認すべき症例
ペニシリンGを使用する際にMICを確認しなければいけない症例が2種類あります。肺炎球菌による髄膜炎と連鎖球菌による感染性心内膜炎です。この2種類の症例について解説します。
まず、MICは最小発育阻止濃度のことです。MICが低いほど組織中の抗菌薬が低濃度でも有効であることを示します。菌ごとに各抗菌薬に対するMICが設定されています。そして、その値が一定値を超えると耐性(無効)のため使用しないことが推奨されます。
肺炎球菌による髄膜炎
肺炎球菌の肺炎に対してはペニシリンGは一般的に有効です。一方、肺炎球菌の髄膜炎ではペニシリンGのMICが他の疾患とは異なり、高めに設定されています。そのため、肺炎球菌の髄膜炎にはペニシリンGは無効となることが多いです。
肺炎球菌による髄膜炎の治療にはセフトリアキソンやバンコマイシンを使用することが多いです。
連鎖球菌による感染性心内膜炎
連鎖球菌に対して、一般的にペニシリンGは有効です。一方、感染性心内膜炎の場合はMICを確認しましょう。
もちろん、全例で使用できないことはありません。MICの値が低ければ積極的にペニシリンGが使用可能です。しかし、MICが高い場合は無効なためバンコマイシンを使用しましょう。また、連鎖球菌による感染性心内膜炎においては自然弁か人工弁かでも治療法は異なります。感染性心内膜炎はあまり見かけない疾患ですが、感染症の書籍を確認して治療に臨みましょう。
ペニシリンについては以上になります。ペニシリンGの実際の介入については以下の記事が参考になると思います。詳しく勉強したい方、症例報告を作成したい方はぜひご覧ください。
アンピシリン
次はアンピシリンについて解説します。「ペニシリンの代替薬」として使用できます。しかし、アンピシリンにしかできないことも多くあります。
抗菌スペクトル
アンピシリンが有効な菌種はペニシリンGが有効な菌種に対しても有効です。しかし、アンピシリンのみが有効な菌種もいます。その中でも押さえておきたい菌が腸球菌とリステリア菌です。
腸球菌の一部に有効
アンピシリンは腸球菌に対して有効です。腸球菌には2種類います。E.faecalisにはセフェム系抗菌薬が無効です。そのため、アンピシリンが第一選択になります。しかし、E.faeciumに対してアンピシリンは無効です。そのため、通常はバンコマイシンで治療します。
リステリア菌に有効
アンピシリンはグラム陽性球菌のリステリア菌にも有効です。リステリア菌は免疫抑制の患者さんの髄膜炎の原因菌です。リステリア菌に対してはペニシリンGよりもアンピシリンの方が活性が高いため第一選択薬はアンピシリンになります。
投与量
アンピシリンもペニシリンGと同様に頻回投与が有効な抗菌薬です。一般的な投与量は2 g×4回/日です。
ペニシリン系、セフェム系は基本的に少量頻回投与が適当な抗菌薬です。
経口への変換
アンピシリンは経口への切り替えが簡単です。経口投与に優れたアモキシシリンがあります。細菌性咽頭炎や歯科治療での心内膜炎の予防にはアモキシシリンが投与されます。アンピシリンで治療した感染症、特に4週間以上の治療期間が必要な場合、アンピシリンの点滴で治療した後、経口のアモキシシリンに変更して退院することはあります。選択肢の一つとして覚えておきましょう。
スルバクタム/アンピシリン
スルバクタム/アンピシリンはアンピシリンにβラクタマーゼ阻害剤のスルバクタムを追加した抗菌薬です。この、βラクタマーゼ阻害剤の追加でMSSAや大腸菌などにも有効になります。
抗菌スペクトル
細菌が産生するβラクタマーゼをスルバクタムによって阻害し、アンピシリンが分解することを防ぎます。その結果、βラクタマーゼを産生する菌に対しても有効になりました。具体的には、黄色ブドウ球菌(MSSA)、大腸菌、クレブシエラ菌、嫌気性菌です。そのため、特に市中感染症の憩室炎、胆のう炎、腹膜炎にも有効です。
また、動物咬傷にも有効です。人も含め噛まれたときはスルバクタム/アンピシリンが有効です。
スルバクタム/アンピシリンなんでも効いて便利だね。市中感染なら何でもこれでよさそうだね。
市中感染症=スルバクタム/アンピシリンは危険な考え方だよ。選択的で有効な抗菌薬を選んで使う方がいいね
スルバクタム/アンピシリンは広域抗菌薬と考えている先生もいます。MSSAにはセファゾリン、大腸菌・クレブシエラ菌にはセフメタゾン、セフトリアキソンなど、もちろん連鎖球菌や肺炎球菌、腸球菌にはアンピシリンでも十分です。効くから使う、考えずに投与は乱用の第一歩です。絶対にやめましょう。
投与量
もちろん、アンピシリン同様頻回投与が有効です。基本的には3g×4回投与(1日12g)が適正量です。
経口への切り替え
次に経口への切り替えについて考えてみましょう。ユナシン(スルバクタム/アンピシリン)®の錠剤がありますがもっと良いものがあります。その名も「オグサワ」です。
「オグサワ」?医薬品集で調べても出てこないよ!
商品名じゃなくて、通称名だね。
オーグメンチン®(アンピシリン250mg/クラブラン酸125mg)にサワシリン®(アンピシリン250mg)を併用する方法です。これを3組/分3で投与します。オーグメンチン®6錠/分3ではクラブラン酸の量が多くなりすぎてしまい、下痢症状が強くなります。
タゾバクタム/ピペラシリン
次はタゾバクタム/ピペラシリンです。アンピシリンとは異なり、ピペラシリンのみでの使用はあまりありません。そのため、今回は合剤のみ紹介します。
抗菌スペクトル
基本的にはグラム陽性球菌(MSSA、連鎖球菌、肺炎球菌)、グラム陰性桿菌(大腸菌)、緑膿菌)、嫌気性菌にも有効です。
ペニシリン系なのに緑膿菌にも効くんだね。
スペクトルはほぼカルバペネムだね。覚えてほしいことは一つ「緑膿菌に有効」なこと
緑膿菌に有効である=緑膿菌を疑ったとき、カバーしなければいけない時にのみ使用します。緑膿菌を疑うときは「院内感染」です。特に、免疫抑制状態の患者さん(好中球減少、ステロイドの使用、免疫抑制剤投与中など)での発熱は緑膿菌のカバーが必須になります。このような患者さんの肺炎、尿路感染、腹腔感染に対して使用しましょう。もちろん、カルバペネム同様に広域抗菌薬であるため乱用しないよう注意が必要です。
投与量
タゾバクタム/ピペラシリン4.5gの内訳ですが、タゾバクタム0.5gとピペラシリン4gです。投与量は4.5g×4回が基本です。なお、ピペラシリン単独での添付文書の使用量は2g×4回です。合剤になると使用可能量が増えますが、日本の添付文書にはこのような推奨される投与量と記載に齟齬があることが多いため気を付ける必要があります。
ESBL産生菌への適応について
ここはよく議論にもなるので、解釈には注意が必要です。まず、大前提としてタゾバクタム/ピペラシリンはESBL産生菌には有効です。しかし、カルバペネムとの比較の結果、有意に劣る結果でした。そのため、カルバペネムを使用せず、積極的にタゾバクタム/ピペラシリンを勧める事はありません。
まとめ
今回は初めに押さえておきたい抗菌薬10選のうちペニシリン系の4種類を紹介しました。
ペニシリン系抗菌薬は適切な抗菌薬治療のためにはまず押さえておきたい部分です。今後10選をまとめた記事を作成する予定ですのでお楽しみにしていてください。
「抗菌薬についてもっと勉強したい」と思った方には岩田先生の「抗菌薬の考え方・使い方」を読んでみてください。紹介記事のリンクを貼っておきますのでご覧ください。
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